言語の壁よりメリットが勝る:Degicaのグローバルチームの真価

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髙木早弥奈

グローバル採用コンサルタント

エンジニアチームのグローバル化は、多くの日本企業にとって挑戦です。言語や文化の違いといった課題が避けられない一方で、Degicaでは、それ以上に得られるメリットが大きいと考えています。特に、日本では優秀なエンジニアの確保が難しい中、国籍や言語にとらわれず、世界中から有能な人材を集められることは大きな強みです。

Degicaのチームでは、多国籍のエンジニアが協力し合い、異なる視点やスキルを活かして日本市場に向けたプロジェクトを推進しています。確かに、異なる母国語を持つメンバーが英語でコミュニケーションを取る難しさはありますが、海外から来るエンジニアたちはそうした壁を承知で日本を選んでいます。その結果、言語の違いは大きな障害とならず、むしろチームに活気や新しい発想をもたらしています。

Degicaはカナダ出身の代表が2005年に日本で創業した企業です。当初はゲームパブリッシングを中心としたさまざまな事業をを展開していましたが、あるお客様の日本参入支援をきっかけに、決済システムを開発しました。。そうして誕生したのが「KOMOJU(購入モジュールの略)」です。KOMOJUは最初からグローバルな展開を視野に入れて開発されたたプロダクトで、特にSTEAMが日本市場に進出する際には、パートナーとして大きな役割を果たしました。

Degicaのエンジニアチームは、3年間で4人から20人へと急成長を遂げました。2024年11月現在では52人いるエンジニアチームの約8割が外国籍であり、CTOとVPoEが共に外国籍という点も国際色豊かな企業文化を表しています。現CTOはカナダ出身のエンジニアで、TokyoDevを通じてDegicaに入社。その後、CTOに抜擢されました。

今回、DegicaのSREチームのテックリードである伊藤さんと、カスタマーエンジニアリングのヘッドである水上さんにインタビューをしました。

SREチームのテックリードである伊藤さん(右側)
SREチームのテックリードである伊藤さん(右側)

伊藤さんは、DegicaのSREチームでテックリードを務めています。2023年8月にDegicaに入社し、1年後にテックリードに就任しました。SREチームは現在、マネージャーを含めて5人のメンバーで構成されており、伊藤さんともう一人のシニアエンジニアを除き、他のメンバーは外国籍だそうです。チームでは、伊藤さんが技術的なアドバイスやアーキテクチャの提案を担当し、各メンバーがそれぞれ独自のプロジェクトを進めています。そんな伊藤さんがDegicaに入社したきっかけの一つは英語力の向上だったといいます。前職でも海外のチームと協力する機会はありましたが、タイムゾーンの違いや言語の壁から、英語をフルに使える環境とは言いがたかったそうです。Degicaでは、英語が主なコミュニケーション手段な上、日本人が少ないため、入社後に英語を使う機会が飛躍的に増えたのだそうです。伊藤さんのケースを見ると、英語を業務で使いたい日本人エンジニアを採用できるチャンスが高まるという意味でも、グローバルなエンジニアチームを作ることはメリットがあるといえます。

 Degicaのカスタマーエンジニアリング部門の責任者である水上さん(左側)
Degicaのカスタマーエンジニアリング部門の責任者である水上さん(左側)

水上さんは、Degicaのカスタマーエンジニアリング部門の責任者を務めています。2024年5月に入社して同月に水上さん自身が立ち上げた部門で、現在はアメリカ国籍のメンバーと2名体制で業務をしています。この部門では一般的なテクニカルサポートのような単純な問い合わせ対応にとどまらず、製品の問題を深く掘り下げて調査し、必要であれば自ら修正作業も行うそうです。新卒でマイクロソフトに入社後、アメリカ発のスタートアップ企業であるCircleCIでも働くなど、国際的なキャリアの持ち主である水上さんDegicaに入社したのは「顧客を念頭に置いたエンジニアリングワーク」ができる環境があったからだといいます。現在のDegicaでもその経験を活かして、外国籍メンバーとの協力やお客様への価値提供に取り組んでいます。

この記事では、伊藤さんと水上さんの実体験を通して、外国籍メンバーの採用における課題や成功例、さらには日本企業が未来に向けてどのようにグローバル化を進めていくべきかについて伺った内容をまとめました。

世界中からエンジニアが集まったチームの強さと魅力

Degicaにとってエンジニアチームのグローバル化は困難が伴うものの、それ以上に大きなメリットがあるといいます。そのメリットについて、複数の側面からお伺いしました。

「日本の当たり前」にとらわれない技術選定

技術面でもグローバルチームであることが活かされると伊藤さんはいいます。さまざまな国や企業での経験を積んだメンバーが揃っているおかげで、日本国内でよく使われる技術とは異なる手法やツールを取り入れることができるそうです。

例えばDegicaではJumpCloud、 Tenable、 Vanta、 Honeybadgerといった日本ではあまり馴染みのないSaaSが使用されていると伊藤さんはいいます。新しく出てきたサービスやツールは一般的にはブログや勉強会などで情報が拡散され広まっていきますが、日本語で書かれた”使ってみた”のような記事がない限り、英語の記事を読んでまでサービスやツールを比較検討することは稀です。一方Degicaでは、過去に英語圏で当然のように使われているサービスの利用経験があるメンバーが入ってくることがあるため、「こういうサービスもあるよ!」と教えてくれるので選択肢の幅が広がるのです。加えてDegicaは社内標準語が英語であるため、こういったSaaS等のツール選定時に、日本語のUIがあるかどうかを気にしなくて良いため選択肢が広がるという側面もあるそうです。広い視野を持った技術選定ができることは、大きな競争力となりえるかもしれません。

各国の決済事情や法律の知見を活かす

各国のメンバーがそれぞれの母国に関する情報や知識を持っていることがDegicaの大きな強みとなっています。決済事業の展開には、各国特有の決済手段や金融のルールへの対応が必要な場面も多く、その際にグローバルなチームの力が発揮されます。

例えば、中国ではAlipayやWeChat Payなど、日本では馴染みのない決済手段がよく使われています。日本人がこれらの情報を深く理解するのは簡単ではありませんが、中国出身のメンバーから現地の実情を教えてもらうことで、正確な判断ができるそうです。具体的な例を挙げると、中国のフリーメールアドレスを使用したユーザーが不正検知システムに引っかかったことがありました。その際、中国出身のエンジニアが「このアドレスを使う人は信頼できないから無視して問題ない」といったアドバイスが役立ち、適切に対応することができたと水上さんはいいます。

また、国によってはデータを他国に持ち出すことが禁止されている場合もあり、金融業界における法律や規制への理解は重要です。伊藤さんも、多様なバックグラウンドを持つメンバーがいることで、日本では考慮されていないリスクや規制にも対応できる点が、非常に大きな強みになっているといいます。

時差の壁を超える

グローバルにビジネスを展開する上で、時差の違いは避けられない課題です。特にアメリカ東海岸のクライアントとのやり取りは13~14時間の時差があり日本にいる社員には大変です。しかし、Degicaではメキシコ在住のメンバーがこの問題の解決に貢献しているといいます。

例えば、アメリカのクライアントからのリクエストに対して、メキシコ在住のメンバーが「これは無視して大丈夫」「この対応はやっておくべき」といった指示を日本時間の朝までに日本チームに出すことで、効率よく作業を進められているそうです。

多国籍チームならではの楽しい日常

さまざまな国のメンバーと働くと面白いエピソードが日常的に生まれ、コミュニケーションにもいい影響があるという伊藤さん。

例えば、インドネシアから移住してきたメンバーが日本のインターネット環境に驚いたという話が印象に残っているそうです。インドネシアでは、月6000円で10メガのインターネット回線を使っていたのに日本では同じ料金で10ギガの回線が手に入ると聞いて、思わず「どうなっているんだ!?」と驚くメンバーの姿にチームで盛り上がったのだそう。こうした何気ない会話を通じて、文化や国の違いを楽しむことができるのも多国籍チームならではの魅力の一つだといいます。

グローバルチームで働く工夫

自立と協力のバランスを重視するDegicaの開発スタイル

DegicaのSREチームの開発アプローチは、一般的な日本企業の方法とは少し異なります。日本では、チーム全員で1つのプロジェクトに取り組むスタイルがよく見られますが、DegicaのSREチームでは各エンジニアが独自のプロジェクトを担当し、個別に進めていきます。伊藤さんによると、こうしたスタイルにより、各自が責任を持って自律的に作業を進め、衝突が少なくスムーズに進行できるといいます。

とはいえ、すべてのプロジェクトが個人作業で進むわけではありません。プロジェクトの規模に応じてアプローチを変える柔軟性が重要だと伊藤さんは考えています。小規模なプロジェクトであれば、1人でやり遂げる達成感がエンジニアのモチベーションに繋がりますが、大規模なプロジェクトではチーム全体での協力が不可欠です。特に影響が大きいプロジェクトでは、チーム全員が力を合わせて取り組んでいるといいます。

シニアエンジニアによるメンタリングの強み

一般的な日本企業にはあまり見られないDegicaの特徴的な取り組みの一つは、メンター制度ではないかと伊藤さんはいいます。Degicaではシニアエンジニアがジュニアやミドルクラスのエンジニアに対して技術的な指導を行うことが、役割として明確に定められているそうです。日本では、マネージャーが主にメンバーの育成を担当することが一般的ですが、Degicaでは技術力の高いシニアエンジニアがメンターとして活躍します。

この制度のメリットは技術に特化した指導が行われる点です。シニアエンジニアは、自らの経験を活かして若手エンジニアを細やかにサポートし、より高度な技術指導をすることができます。マネージャーは必ずしも技術面に強いとは限らないため、チーム全体の技術力を向上させるにはシニアエンジニアのメンタリングが適していると伊藤さんは感じています。

DegicaのSREチームで新しいプロジェクトが始まる際は、そのプロジェクトをメインで担当するエンジニアが決まります。伊藤さんが初めてメンターとしてアサインされた時は1つのプロジェクトから始まり、次第に担当プロジェクトが増えていきました。

メンターとしてのサポートには国籍はさほど問題にならないと伊藤さんはいいます。実際には国籍よりも個人の性格や働き方に合わせたアプローチが重要だと感じているそうです。例えば、アドバイスの仕方やコミュニケーションのスタイルも、その人の性格に応じて調整する必要があり、それは日本人でも外国籍のメンバーでも同じだといいます。

文字と口頭、二つのコミュニケーションの両輪

水上さんはコミュニケーションにおいて文字と口頭の「両輪」を重視しているといいます。例えば、文字情報は整理して書き残すことで、読み手が自分のペースで情報を吸収できる一方、口頭でのコミュニケーションは、その場で疑問点を解消し、意図をしっかり伝えることができます。つまり、文字情報と口頭でのやり取りの両方をバランスよく使って効果的なコミュニケーションを心がけているのだそうです。

また、Degicaでは重要なドキュメントが日英併記になっているため、日本語と英語の両方で情報を確認できるのも多国籍チームの大きな助けになっています。技術的な英語はしっかりと学んでいるメンバーが多い一方で、労務管理や人事関連の書類は日本語の方がスムーズな場合も多く、日英併記のドキュメントがそのギャップを埋める役割を果たしているそうです。

外国籍マネージャーとの協働で見えた新たな視点

Degicaにエンジニアとして入社した際、優秀なマネージャーの元でマネジメントについても学びたいという思いがあったという伊藤さん。現在、2023年にDegicaにSREのマネージャーとして入社し、翌年にはスリランカ出身でPhDホルダーでもあるVPoEから学びを吸収しているのだそうです。伊藤さんが特に印象深く感じているのは、マネージャーが常にチームメンバーの成長とキャリアを優先し、チャレンジの機会を与えてくれる姿勢です。会社からのプレッシャーや指示がある立場であっても、最終的には各メンバーの将来を考えてサポートしてくれるため、信頼して仕事に取り組むことができると語ります。伊藤さん自身、時には会社の立場で物事を考えてしまうことがありましたが、マネージャーの姿勢から「メンバー第一主義」の大切さに気づかされたそうです。

マネジメントについて学びを深める伊藤さんですが、テックリードに推薦された際には迷いがあったそうです。テックリードは、技術とマネジメントの両方を兼ねる役割で、過去の経験から技術に集中できないことが不安だったといいます。しかし、その時もマネージャーは「無理にやる必要はない」と柔軟な姿勢を示し、昇給の話も「パフォーマンスが良いから昇給させたいが、どうやって進めるか一緒に考えよう」と親身になって相談に乗ってくれたそうです。最終的には、伊藤さんの働き方を尊重しつつ、肩書だけテックリードに変更するという形で解決しました。この対応によって、伊藤さんはマネジメント的な役割を少し担いながらも、自分らしい働き方を続けることができ、結果としてマネージャーの負荷も軽減されたとのことです。

グローバル化は必要なのか?

日本企業のグローバル化は果たして必要なの?アメリカの企業で働いた経験を持ち、Degicaのグローバルチームで働く水上さんの考えを伺いました。

グローバル化を目的にしない

水上さんは、多くの日本企業にとってグローバル化は避けられないのではないかと考えているそうです。日本では人口減少と高齢化が進んでおり、将来的には働き手の数が大幅に減少することが見込まれています。この現実を前に、企業が「日本人のみ」といった条件にこだわって人材を採用するのは、長期的にリスクが高まると指摘します。人口の縮小にともない限られた労働力で事業を維持するのが難しくなっていくため、企業が存続するためには、働ける人材の幅を広げる必要があるのです。

このような状況において、企業は外国人労働者や女性、障害を持つ方、高齢者といった多様な働き手を受け入れられる環境を整備することが求められるのではないかといいます。水上さんが強調するのは、こうした取り組みを進める際に目的意識をしっかり持つことです。外国籍の人材を採用すること自体が目的ではなく、企業のサステナビリティや成長を実現するための手段として考えるべきだということです。会社が存続し、将来にわたって発展していくためには、働ける人の条件をできるだけ緩和することが不可欠。その一環として、外国籍の人々の採用を進めることが重要な選択肢の一つになると述べています。

グローバル化は、今後の日本企業にとって避けられないステップであり、多様な人材を受け入れることで、新しいチャンスを見出す道でもあるのです。

日本語のスキルは本当に必要か?

日本企業が優秀な外国籍人材を採用したいと考える際、立ちはだかるのが日本語の壁です。この点についても、水上さんはどうお考えなのかを伺いました。

現在、水上さんは自身のチームに1名採用したいと考えているそうですが、お客様が日本語しか使えない企業や個人事業主であるため、顧客対応の観点から日本語ができることを条件にしています。確かに、日本語を要件にすると採用が難しくなる側面もありますが、業務の性質上、これは避けられないと水上さんは説明します。

とはいえ、「日本語ができる」ことを求めてはいるものの「日本人である必要はない」と考えているそうです。実際に、チームメンバーの1人はアメリカ国籍ですが、英語教師として日本に長く住んでいた経験もあり、日本語が非常に堪能で、日本語での業務にも全く問題がないといいます。

「本当に日本語が必須条件なのか」を考え直すことの必要性を水上さんが特に強調します。Degicaのように顧客が日本語しか使えない場合、日本語は不可欠ですが、社内でのコミュニケーションや業務において、必ずしも正確な日本語が求められるわけではないかもしれません。業務上絶対に日本語が必要なのかどうかとともに求人の要件を見直すことを水上さんは提案します。

未来を見据える採用戦略とは

外国籍のメンバーを採用するとなると、「英語を公用語にしなければいけない」や「日本語の壁がある」といった課題を感じてしまうことが多いかもしれません。しかし、水上さんは、立ち止まってしっかりと考えることが大切だと提案しています。

本当に日本語が必須なのか、または英語が社内で使われるべきなのか、目的を明確にして見直すことで、企業にとって選択肢が柔軟になり、広がるかもしれません。言語の問題、ひいては外国籍採用はあくまで手段です。課題を乗り越え、より多様で優秀な人材を集めることができれば、会社の成長におおいに貢献する結果が待っているかもしれません。

著者について

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髙木早弥奈

グローバル採用コンサルタント

2019年から人材業界に携わっています。様々な国籍のソフトウェアエンジニアの日本での就職サポートを強みにしています。

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