マネーフォワードは、「お金を前へ。人生をもっと前へ。」をMissionに掲げ、お金に関する不安や課題を解決するサービスを展開し、大きな成長を遂げている企業です。このように大きく成長した企業が、エンジニアチームのグローバル化に取り組む事例はそう多くはありません。
そこで今回はマネーフォワードのグローバル化における取り組みや挑戦について、現場のキーパーソンである神谷さん(エンジニアリング戦略室 室長(VPoE))、崔さん(エンジニアリング戦略室タレントアクイジション部 副部長)、橋口さん(People Forward本部グローバル採用部 副部長)3名にインタビューを行いました。
神谷さんは2018年にマネーフォワードに入社し、6年間エンジニアとして働いたのち、エンジニア採用を強化する現在のポジションに就きました。一方崔さんと橋口さんは2023年春に入社して以降、グローバル採用に取り組んできました。
マネーフォワードは2019年にベトナム・ホーチミン拠点の立ち上げを皮切りに、組織のグローバル化を本格的にスタートさせました。そして、さらなる加速を目指し、2021年秋にCTOの中出氏から大きな方針が打ち出されました。それは、2024年11月末までに、社内エンジニア組織における仕事上のコミュニケーション言語を英語にするというものです。
エンジニアチームを英語化していく過程は、時に一筋縄にはいかない時もあったといいます。例えば当時、神谷さんがマネージャーとして働いていた部門は、グローバル出身のメンバーは所属していたのですが、全員が日本語を話すことができる60名程度で構成されていました。ところが、一度に日本語要件不問で入社した5名程度のメンバーを中心に構成されたチームを受け入れることになり、そこで一気に英語でのコミュニケーションを求められることになったのです。これを機に急にスイッチが入ったと神谷さんはいいます。
海外拠点を設立し、日本国内のエンジニアチームのグローバル化に取り組んでいるマネーフォワードの事例は、他の日本企業にとっても大いに参考になるはずです。彼らの具体的な取り組みをぜひご覧ください。

マネーフォワードのエンジニア採用における体制刷新
マネーフォワードはグローバルなエンジニアチームの構築を、どのような体制で取り組んでいるのでしょうか。まずは神谷さんと崔さんが所属するエンジニア戦略室について、その役割や立ち位置をお伺いしました。
ボーダレスなエンジニアチームを作るためにエンジニアリング戦略室を新設
現在、マネーフォワードは日本だけでなく、ベトナムやインドにも開発拠点を持っています。現状では、各拠点が要求のあったポジションの採用を個々に行っているのですが、「エンジニアリング戦略室」は、各拠点の採用事情や実績を見ながら、採用戦略を策定し、各拠点のTalent Acquisitionをより強力なものにしていく役割を担っています。それだけではなく、育成、そして組織開発までを担当しています。このチームは、採用やHRBPといった役割に加え、社内外でのテックカンファレンスの運営など、社員のエンゲージメント向上も含め全般に関わっているそうです。
2018年から進められてきたグローバル化戦略が、タレントアクイジション部による横串でのエンジニア採用にも現れています。実はちょうどインタビューを実施した2024年10月から、新たな形でのエンジニア採用が再スタートしていました。マネーフォワードでは、法人向け・個人向け・金融機関向けの複数ドメインの事業を展開しています。それまでは各事業ドメインごと、また日本国内や海外の拠点ごとに採用部が分かれていました。しかし、エンジニア採用においてはグローバルに連携する需要が高まってきたため、組織全体で大きな方向性の転換がありました。グローバルでボーダレスな組織を目指すことが重視されてきているからです。そのため、まずは日本国内の採用機能をタレントアクイジション部に集約することで、効率的かつ効果的に人材を確保することが狙いだといいます。そのうえで、海外拠点のタレントアクイジション部との採用情報をベースとしたコラボレーションを進めていきたいと、神谷さんはいいます。
グローバル採用部との役割分担
一方、人事部の直下には「グローバル採用部」と「新卒採用部」の2つの部署があります。橋口さんが所属する「グローバル採用部」は海外の大学からの新卒採用や、新卒・中途問わず海外から採用した人たちの在留資格の申請、本国対応を担当しています。つまり、エンジニアリング戦略室がエンジニアの中途採用と育成を専門に担当しているのに対し、グローバル採用部は新卒採用やビザの手続きを中心にサポートを行っているのです。
日本国内のおけるグローバルなエンジニアチーム作りの歩み
海外拠点設立の後の2021年の秋、マネーフォワードはエンジニアチームの英語公用語化に向けて大きく舵を切りました。その理由について、CTOの中出氏は以下のように説明しています。
”中長期的な視点に立った時に、世界中からエンジニアの採用をすすめるという方針は不可逆であり、また将来過半数を超えるであろう彼らがより力を発揮しやすい環境を作ることは、採用においても開発力強化においても重要であると考えました。 また日本人のエンジニアにとっても、英語で仕事ができるようになることは、将来の選択の幅を広げ、市場価値をあげる機会につながると考えています。”
エンジニア組織の英語化についての詳細は、中出氏による「マネーフォワードCTOが考えていること」をぜひご覧ください。
このプロジェクトは2024年11月末の完了を目標に進められてきました。事業部の状況やどこから優先的に英語化を進めるべきかを考えながら、大きく3つの段階に分け、段階的に進めていったそうです。
チームの公用語を英語化するまでの3段階プロセス
第一段階:進めやすいところから開始
英語化の第一段階は、比較的進めやすい部署からスタートしました。3段階のプロセスの中で一番苦労したのはこの第一段階だったと神谷さんはいいます。2018年頃から、マネーフォワードではグローバル出身の新卒採用に取り組んでいました。国内の一部の部署ではそういったメンバーや中途採用の日本語が母国語ではないメンバーが活躍しているチームが既にあったそうです。第一段階ではまずはそのような経験のあるチームや英語を使用することに抵抗が少ないメンバーが在籍するチームを対象にしました。この第一段階は2021年から2022年にかけて実施されましたが、当時は実務レベルで英語対応の準備が整っていないチームも多く、一時的に業務効率が落ちたり、ミスコミュニケーションが起きたりと、多くの問題が出たそうです。この時のフィードバックをもとに、以降の段階でも組織全体で改善を進めていったといいます。
第二段階:トレーニングの本格化
次に、第ニ段階として、2022年頃から日本人メンバーをはじめとする非英語話者を対象にした英語トレーニングが本格化しました。チームメンバーがトレーニングを受けつつ、社内向けの英語カリキュラムが構築されていったのです。しかし、当時は、会社全体で業務で英語を使う機会が少なかったことが問題だったといいます。英語を学習しても実際に使う機会が限られていたため、英語でのコミュニケーションの浸透には時間がかかったそうです。
第三段階:導入が最も難しい領域への挑戦
第一・第二段階では、日本独自の専門知識が少なくても対応できる開発チームから英語化を始めたそうです。例えば、マネーフォワードを利用するためのIDを管理するサービスなど、エンジニアにとって比較的一般的な知識を必要とする開発チームです。またグローバルに通じやすい領域も優先されました。例えば人事労務の領域でも、勤怠や給与管理のように複雑なものではなく、年末調整等の比較的シンプルな機能を開発するチームから進められていったのです。この頃になると、日本語要件を問わない採用が英語化が進んだチームで始まりました。チームメンバーにそのような方が増えると、第二段階で課題となっていた実際に英語を使う機会の少なさも解消されていきました。
しかし第三段階では、日本独自の会計システムを開発するチームにも波及させていきました。こういったチームでは、人事用語や日本の会計制度といった専門知識が業務が含まれています。例えば「のれんの減価償却」など、日本特有の会計システムへの理解などです。「のれん」などの難解な部分はまだ理解が進んでいない点も多いと神谷さんはいいます。そのようなプロダクトでも開発チームは細分化されており、英語話者のエンジニアが参画しやすいチームから英語化を進めると言った工夫もされているそうです。
現在は日本語と英語の境界線をどのように引くべきかが課題となっていると神谷さんはいいます。2024年10月現在、公用語の英語化についてはエンジニア職種と定義されていて、他職種の方々とのコミュニケーションは今後も日本語で行う場面があることから、社内には必ず日本語と英語の境界線が存在します。その線引きをどうしていくかが重要なポイントだと考えられているのです。
英語化の達成状況
2024年11月末の完了を目標にしてきた英語化ですが、インタビュー時点ではあと1ヶ月という最終段階に差し掛かっていました。ゴールを目前にした全体の進捗は非常に順調で、TOEICのスコアやリスニング・リーディングのスキル、発話に重点を置いて設けた指標でもすでに9割以上の達成を見せているそうです。
グローバル化のターニングポイント
国内におけるグローバルエンジニアの採用において、マネーフォワードには2つのターニングポイントがあったといいます。
グローバル採用初期の苦労
マネーフォワードのグローバルエンジニア採用は、人事担当者も英語を話せない状態からスタートしたそうです。英語での採用に携わってきた崔さんや橋口さんら中途入社した後は、まだ仕組みが整っていない状況の中で、試行錯誤を繰り返しながらグローバル採用を進めていきました。グローバル採用を始めた最初の頃は、日本語が話せない外国籍の候補者を採用した経験もほとんどなく、採用マネージャーとのコミュニケーションを通じて一歩一歩前進していくしかなかったそうです。
その中で、TokyoDevを通じて複数の優秀な外国籍エンジニアを採用できたことは大きな成功だったと崔さんはいいます。この成功は他の採用マネージャーたちにも良い影響を与え、「うちのチームでも日本語の話せない外国籍エンジニアの採用を試してみよう」という意欲を引き出すことができたそうです。また、TokyoDevのようなグローバル採用プラットフォームでは求人を公開するだけで多くの応募者を集められたうえ、ミドルからシニアクラスの優秀な人材を効率的に採用できたこともグローバル採用を加速する大きな後押しとなりました。
英語話者がマジョリティへ
英語化が進む中で、英語話者がマイノリティからマジョリティへと変わったタイミングが、グローバル化のもう一つの大きな転換点でした。英語化の初期段階ではまだ英語話者が少なかったのですが、エンジニアチームで英語話者がマジョリティになり始めた頃から、英語化の進捗が一気に進んだように感じたと神谷さんはいいます。2023年春には英語が朝会や全体会議で使われるようになり、英語でのコミュニケーションが定着しました。この変化により、日本語を話せない外国籍メンバーの採用も増え、社内交流も活発化し、業務上の課題が自然と解決されていったといいます。
当初、日本語が話せることが採用の前提条件でしたが、崔さんは「グローバルで採用するとどういった人材が採用できるのか」を見せるために、まず面接をしてみましょうと説得をしていったそうです。TokyoDevなどの外国籍エンジニアに強い外部の協力を得て、一人ずつ着実に進めていったといいます。最初に外国籍エンジニアを採用できると、その成功事例が社内に広がり、他部署でも興味が高まりました。「こういう人材を採用できました」「こういう方法でタイムコストを節約しました」という話を他の部署に伝えたり、「すごい人材が来るらしい」という話が現場でも話題になったといいます。また懸念が出た際には、崔さんや橋口さんなどの採用担当者が、英語面のサポートや前職での経験を活かし「私たちがサポートするので安心してください」と説得する形で進めていったそうです。
橋口さんも、「一人の採用で流れが変わった」といいます。橋口さんが担当していた部署は、当初「日本語必須」の条件を設けていましたが、説得を重ねることで最終的には英語話者の採用も受け入れるようになったそうです。最初から「日本語が必要」としてしまうと採用が非常に難しくなり、採用活動が停滞してしまいます。そうした状況で「一度条件を広げてみませんか」と提案すると、一気に応募者が増え、新たな可能性が広がりました。そして「それなら試してみよう」という流れが生まれ、次第に他の部署にも英語話者の採用が波及していったのです。
そうしたことの積み重ねにより、英語話者がマイノリティからマジョリティへと切り替わっていったのではないかといいます。
海外拠点の立ち上げと成長の軌跡
マネーフォワードは国内のエンジニア組織をグローバル化するより前に、最初のステップとしてベトナムに開発拠点を設けました。さらに最近ではインドに新たな開発拠点が作られています。この取り組みは単なるオフショアではなく、日本と同等の開発拠点にすることを目指したものです。それぞれの拠点の立ち上げから現在の連携体制に至るまでの経緯や課題、そして今後の展望について神谷さんが語ってくれました。
最初から「オフショア」という感覚はなかった
神谷さんによれば、ベトナムに海外拠点を設けるかどうかの議論は2017年頃から始まったといいます。最初は現地法人をラボ的な役割で設け、現地スタッフと一緒にものづくりができるかどうかを試してみることからスタートしたとのことです。日本国内での人材確保の難しさがあったといいます。
マネーフォワードでは、Mission、Vision、Values、そしてCultureを非常に大切にしており、ベトナム拠点を立ち上げる際もその理念を共有し、現地の方々と同じ目線で開発を行うことを重要視していました。立ち上げのメンバーが強く言っていたのは「ベトナムをオフショア拠点ではなく、日本とベトナムという物理的な距離がある中でも同じチームとして対等に扱ってほしい」ということでした。神谷さん自身も最初からオフショア拠点という感覚は持たず、あくまでマネーフォワードの開発拠点の一つとして認識していたそうです。
当時から福岡や京都にも開発拠点があり、ベトナムはそれと同様に位置づけられていたのではないかと神谷さんはいいます。日本からプロジェクトマネージャーが短期間赴任し、ベトナムのチームと協力して開発を進めるなどもしていました。
特に、当時は日本国内での人材確保の難しさが感じられ始めたこととベトナムのメンバーとコラボレーションする事例が増えつつあった時期であり、そのため社内でも抵抗感は少なかったそうです。
また、神谷さん自身も前職で海外メンバーとの開発を間近に見ていたこともあり、彼らの能力や業務に対する姿勢を把握していたため、スムーズに取り組みを進めることができたそうです。
インド拠点の立ち上げ
ベトナムに続いてインドに拠点を設けた背景には、CTOの中出氏の強い意向があったといいます。中出氏は「日本にとらわれない開発組織を構築する」というビジョンを持っており、そのビジョンを実現するために特定の場所に固執せず、世界中から優秀な人材を集めることを目指しているといいます。
インドはその中の一つの選択肢であり、いくつかの候補地が検討された結果、最終的にチェンナイに拠点を設けることが決まりました。CTOの中出氏は、「誰も行かないなら自分が行く」と率先して自らがインドに滞在して拠点立ち上げに関わり、現在も積極的に現地での活動を進めています。この取り組みの根底には、「日本だけでなく、世界中でマネーフォワードらしい開発チームを作る」というビジョンが背景にあったと神谷さんはいいます。
国内チームとベトナム・インドの連携
神谷さん自身、エンジニアとして日本とベトナムのメンバーが協力して基盤開発を行う経験をしたことがあると話します。また、他の部署ではベトナムのチームが一つのプロダクトを完全に担当して開発するケースもあったそうです。今では福岡、京都、大阪、名古屋、東京、ベトナム、インドといった多様な拠点がコラボレーションして働いており、神谷さんは「拠点がどこかをあまり意識せず開発を進めるという次のフェーズにきたという実感がある」といいます。
拠点間の連携が進んでいる一方で、人事面や評価面における課題はまだ残っているそうです。現状では、これらの整備を後から進めている状況であり、今後の改善点だといいます。
また実務面においても、グローバルなチームで働く中での困難があったと神谷さんはいいます。特に、初期段階では日本とベトナムがそれぞれ別法人であり、業務で利用するツールや組織が異なっていたため、情報共有が非常に難しかったそうです。ここ数か月でようやく、通常使用するドキュメントのサービスが統合され、情報が見えるようになり、連携がよりスムーズになったとのことです。
組織が大きくなってからのグローバル化は実際どうだったのか?
マネーフォワードは組織が小さい時にグローバル化を進めたのではなく、ある程度規模が大きくなってから、グローバル化に取り組みました。最初の海外拠点を設立した時の開発チームは約100名であり、英語化を公言された2021年秋には約400名の組織でした。すでに成長していた組織だったからこそ、グローバルチームを作ることのメリットや、それがなぜ成功したのかを、3名に振り返っていただきました。
グローバル化を推進したCTOの強い意思
崔さんは、マネーフォワードのグローバル化が進んだ背景には、CTOである中出氏の強い意思が大きかったと振り返ります。採用マネージャーたちには日本語と英語のバイリンガルが必須と示されることも多かったそうですが、「2024年11月末まで英語化を完了する」という中出氏明確なビジョンがあったからこそ、それを引用して他のメンバーを説得することができたといいます。このように、トップの強い意志とそれに対する会社の投資があったからこそ、グローバル化がうまくいっていると崔さんは強調します。
神谷さんは、2021年にCTOの中出氏から「これからの成長のためには、開発集団の前提を変える必要がある」と決断した背景を聞いていたものの、現場から多少の抵抗があったのは事実だといいます。とはいえ、その抵抗は予想していたほど大きくはなかったそうです。特に若手のメンバーが多かったこともあり、「英語トレーニングを受けられるならメリットしかない」と前向きに捉える人が多かったのだといいます。
一方で、神谷さん自身は40代で英語を学ぶことの難しさを感じたと振り返ります。以前は「絶対に海外には行かないし、英語のトレーニングもしない」と思っていたそうです。それでもこの取り組みをやっていこうと思ったのは、CTOの中出氏の決断の先にある開発組織の未来を見たいと思ったからだといいます。過渡期におけるエンジニアリングマネージャーや中間管理職の存在は非常に大きく、これが英語化を後押しする重要な要素となったのではないかと崔さんはいいます。
大きな組織だったからこそのメリット
組織が大きくなってからグローバル化に取り組んだメリットについて、橋口さんは「いろんな人がいて、知見のある人もいるため、大きくなってからの方が制度を整えやすい」と話します。分担もしやすく、人数が多ければ経験者も存在するため、ゼロから始めるよりも効率的に物事を進めることができるのがその理由です。例えば、小規模な企業では現場が受け入れ対応や入国手続きを行わなければならないケースが多いですが、組織が大きくなると人事部門が入国対応を担当するなど、分業が可能だといいます。
また神谷さんの前職では、海外開発拠点があったにもかかわらず活用できなかったことがあり、その理由は海外のメンバーと共に開発をした経験のある人が社内にいなかったからだと振り返ります。一方、マネーフォワードには、外資系企業出身者やグローバルチームでの経験を持つメンバーが社内に複数名いました。ゼロから経験のあるエンジニアのリーダー層を募集するところから始めていたら、もっと難しかったのではないかと神谷さんはいいます。一定の規模と人数が整っていたからこそ英語化に取り組むことができ、手を挙げてくれるリーダーがいたからこそ、円滑に進むことができたのです。
もう一度やるなら法令面はしっかりと
マネーフォワードのグローバル化は、走りながら法令関係を整備していったといいます。外国籍メンバーの受け入れ業務は走りながらでも進めることができますが、法令に関する準備は事前にしっかりと行う必要があり、そこに投資をしてプロフェッショナルな人材を雇ったり、ベンダーに依頼することが重要だといいます。
特に雇用関係の法令、入管手続き、入国者の申請、個人情報の取り扱いについては非常に慎重な対応が求められるといいます。例えば、ヨーロッパではGDPRなどの規制があり、違反すると巨額の違約金や法的措置に発展する可能性があります。橋口さんは、「例えば、フィリピン国籍を持つ方を採用する場合、フィリピンには独自の雇用ルールがあり、特殊な手続きが必要なのです。」と振り返ります。こういった手続きにおいて、プロフェッショナルの力を借りることが、スピードを落とさずにグローバル化を進めるうえでは重要であるといいます。
また国内の人材紹介会社が、海外からの人材を紹介する際に必要なライセンスを持っていないことが多いこともあるそうです。必要な資格を持っていないにもかかわらず、大丈夫だと言い切ってしまうケースも多く、細かい法令遵守の重要性を改めて感じたと橋口さんは語ります。
日本企業のグローバル化に向けた取り組みと課題
マネーフォワードの最前線でグローバル化の取り組みをされてきた神谷さんに、グローバル化の必要性や日本企業の今後について伺いました。
マネーフォワードのグローバル化がCTOである中出氏のビジョンで実現したように、神谷さんは、グローバル化を進めるかどうかは、その企業の経営者が「どのような人たちと一緒にものづくりをしたいか」というビジョンに依存するのでは、といいます。そして、必ずしもすべての企業が外国籍のエンジニアを採用する必要はなく、無理に進めることもないのではないかといいます。むしろ、グローバル化を本当にやりたいと思う企業、そしてその意思を持った経営者が率先して進めるべきであり、そうでなければ採用された人も不幸になってしまう可能性があると指摘します。一緒に働く意志があり、共に進んでいけるかどうかが、グローバル化を成功させる上で重要な要素だと考えられています。
マネーフォワードのグローバル化から学ぶこと
TokyoDevのクライアント企業の中にはスタートアップのグローバル化事例が多く見られますが、マネーフォワードのような大きな組織での取り組みは珍しいといえます。組織が大きくなった後だからこそ、挑戦もあればメリットもあるということがわかりました。
とはいえ、グローバル化の成功にはトップの強い意思とビジョンが不可欠なのかもしれません。それが組織全体を牽引し、グローバル化という大きな挑戦を乗り越える力となるのではないでしょうか。マネーフォワードの事例のように、TokyoDevが外国籍エンジニア採用の一助になれたらと思います。