相互理解で生まれるイノベーション:Shippioのグローバルなエンジニアチームとは

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髙木早弥奈

グローバル採用コンサルタント

貿易業務をデジタルの力で可視化し、効率化を図る——Shippioは、まさにこの大きな目標に挑戦し続けています。貿易DXというまだ誰も成し得たことのない大きな課題に立ち向かい、2016年の創業以来、急速に成長を遂げてきました。今や、会社全体で100名に届く規模となり、特にエンジニアチームは現在21名、そのうち約半数が外国籍メンバーです。メンバーの出身国はインドネシア、ドイツ、イギリス、フランスなど9カ国にわたり、多国籍なチームとなっています。

創業当初からグローバルなエンジニアチームを構築し、日本人だけでなく様々な国籍・文化を背景に持つメンバーが力を合わせてきました。Shippioはどのようにしてこの強いチームを作り上げ、成長を支えてきたのか。その鍵を探るために、同社のエンジニア採用担当である角谷さんにお話をお伺いしました。

このインタビューでは、グローバルチームの成長における挑戦や言語の壁を乗り越える工夫、採用広報の重要性など、Shippioがどのようにして多様な人材を活用し、革新を続けている理由をご紹介します。

Shippioにおけるグローバルチームの基盤とは

外国籍エンジニアの採用は、Shippio創業時からの明確な戦略でした。日本人だけでスタートしてから外国籍の方を受け入れたわけではなく、最初から日本人と外国籍のエンジニアを採用する方針だったそうです。なぜ創業時からそのような方針を持っていたのでしょうか?

国際物流の未来を見据えた採用戦略

Shippioが外国籍エンジニアの採用に積極的だった大きな理由の一つは、事業の性質にあります。同社は国際物流や貿易DXを推進する企業であり、グローバルなビジネスを展開する上で異なる国や文化のバックグラウンドをもつ多様な人材を集めることは不可欠です。国際物流という複雑な領域においては、多様な視点や経験が重要であり、これにより多角的な視点から課題にアプローチできたり、より強い組織を築き、より良いプロダクトを生み出す原動力にもなると考えたからです。

この外国籍エンジニアの採用は代表が決めた方針です。代表自身も英語が流暢で、コミュニケーションに問題がないため、例えば事業説明なども英語でエンジニアチームに対して行っています。

採用担当がいない初期の苦労

初期のShippioには、専任のエンジニア採用担当者がいませんでした。スタートアップ企業によくある状況で、最初に採用された人事担当者はエンジニアからビジネス職まで、全ての職種の採用を一手に引き受けていました。しかし、会社全体のフェーズが変わり、エンジニアの採用ニーズが高まる中、採用担当の増員が必要な状況へとなっていきました。

また、エンジニア採用は難易度が高く、社内のリソースも限られていたため、書類選考や応募いただいた方への対応が追いつかない時期もありました。

エンジニアを巻き込んだ採用活動も行っていましたが、海外のエンジニアからの応募が殺到し、求人媒体の利用を一時的に停止する状況になったこともありました。

チームが10人を超えてからの拡大のステップ

エンジニアチームの規模が2桁に達した頃、Shippioはさらなる成長を見据えて採用体制を強化しました。急速に拡大するチームを支えるため、専任の採用担当者を設けることにしました。

元EMが採用担当に異動したことで成長が加速

エンジニア採用の需要が急増する中、1人の採用担当者では対応しきれない状況に直面しました。そこで、角谷さんの前任となる専任の採用担当者が新たに加わりました。ここからビジネス職とプロダクト側の採用を分け、それぞれの部門の責任者とのコミュニケーションを強化しながら、事業や開発状況・今後の計画に合わせた採用戦略が展開されていきました。

その後、エンジニア採用担当としてエンジニア組織から人事に異動する形で角谷さんが加わりました。角谷さんは元々Shippioでエンジニアリングマネージャーを務めており、面接の担当などもしていました。また、海外のスタートアップでのエンジニア経験もあり、外国籍エンジニアの採用において適任でした。角谷さんがエンジニアの採用担当になったことにより採用プロセスがよりスムーズに進み、採用体制が整ったことで、成長の勢いがさらに加速したのです。

体制強化で採用プロセスが効率化

採用体制が整う以前は、海外からの応募が多くスクリーニングがうまく機能していない場面もありました。しかし新体制ではエンジニアとしての経歴を持つ採用担当者が、候補者をしっかりと見極め、カジュアル面談やエンジニアチームへの速やかな紹介が可能になりました。初期の失敗を活かしながら、採用プロセスは徐々に改善され、組織全体がより効率的に回るようになったのです。

リファラルの成功要因

現在、リファラル採用はShippioにおける重要な施策の一つです。社員が知人を食事に誘う際、その費用を会社が負担するプログラムを導入することで、社員が自分のネットワークから優秀な人材をリファラルする際のハードルを下げています。月に1度の全社ミーティングでも、定期的にリファラルの呼びかけを行い、社員に積極的な協力を促しています。また、ビジネスチームでは「メモリーパレス」というリストアップ方式を導入し、知人の中から適任者をピックアップしてアプローチするなどの工夫もしています。

言語よりも「相手に伝わること」が重要:Shippioのユニークなコミュニケーションスタイル

日本人エンジニアだけでなく外国籍エンジニアも積極的に採用してきたShippioでは、創業当初からエンジニアチームの公用語は英語でした。しかし、言語面での課題も少なくはありませんでした。彼らはどのようにしてその壁を乗り越え、スムーズなコミュニケーションを実現したのでしょうか?

同時通訳の限界

当初、バイリンガルの社員が数名いたため、彼らに同時通訳をしてもらいコミュニケーションを図ろうとしました。しかし、この方法は限られたメンバーに負担が集中してしまい、長期的に続けるのは難しいと判断されました。負担を均等に分担し、持続可能なコミュニケーション方法を模索する必要がありました。

相互理解を深める工夫の中で自然と定着した「ミックスランゲージ」

そこで、Shippioが見つけた独自の解決策が「ミックスランゲージ」です。これは、状況に応じて英語と日本語を組み合わせながらコミュニケーションを取るスタイルです。英語を話せる外国籍エンジニアや、日本語を少し理解できる人、英語を学習中の日本人エンジニアが一緒に働く中で、最も重要なのは「お互いに理解し合うこと」。そのため、2つの言語を柔軟に使い分けながら協力して進める文化が自然に形成されていきました。

例えば、日本人の同僚がある英単語を忘れてしまったとします。そんなとき、そのまま日本語で説明してみるのです。日本語がある程度わかる外国籍エンジニアであれば意外と日本語で伝わったりするのだそうです。それが伝わったらまた英語に戻る、といった具合に、双方が分かりやすい言語でコミュニケーションを図ります。お互いに「この日本語なら分かるかな」「この英語なら理解してもらえるかな」と頼り合いながら、自然と日本語と英語を行き来するようになったそうです。

Shippioの会社全体では日本語でのコミュニケーションがメインではあるものの、全社ミーティングでは、日本語話者は日本語で、英語話者は英語でプレゼンを行うなど、それぞれが得意な言語を使用しますが、プレゼンテーションスライドは日英併記または英語で作成されています。重要なのは、どの言語であっても「伝わる」こと。この延長線でミックスランゲージのコミュニケーションが定着しています。

実際に人事担当者(日本語話者)とエンジニア(英語話者)がミックスランゲージで会話をしている様子を拝見しましたが、想像以上に日本語と英語がミックスしており、かつ皆さんがスムーズにコミュニケーションを取られており驚きました。お互いに負担なく発言をし聞き取ることができ、別の言語を話すストレスと相手への思いやりのバランスが取れた非常に良いコミュニケーションスタイルなのではないかと感じました。

Shippioの採用広報戦略:自己応募が増えた理由

Shippioが外国籍エンジニアを中心にチームを拡大できた理由は、単に魅力的な環境を提供するだけではなく、積極的に採用広報を行い、自己応募を増やしてきたことにもあります。どのような取り組みが成功を導いたのか、伺いました。

なぜ採用広報に力を入れるのか

Shippioが採用広報を始めたのは、テックリードなど経験が豊富なエンジニアを採用する必要が出てきたことがきっかけです。更に、事業の成長に伴い今後エンジニアの採用人数は年々増加していくことが明らかでした。Shippioが採用広報活動を通して「日本におけるグローバルなエンジニアチーム」という認知で第一想起をしてもらえるようになることで、エンジニアが転職を考え始めた際にShippioのことを思い出し、エントリーやスカウトへの返信など、何らかの形でShippioの選考を受けてくれることを目指しているそうです。

採用広報を始めた際は、元々技術コミュニティでの活動をしていたエンジニアが推進者となり、採用広報担当と一緒にプロジェクトを進められました。現在の採用広報活動は、プロジェクトごとに社内のエンジニアがオーナーシップを持って、イベントの企画・運営やブログ運営を行なっているといいます。

グローバルチームとしての認知が拡大

少しずつではありますが、Shippioの採用広報の取り組みが実を結び始めています。たとえば、定期的に開催している「Tech Nite」というイベントを通じて、カジュアル面談の希望者が増加。また、エンジニアが英語で書いた「Tech Blog」が候補者の目に留まり、面接時に「この記事が印象に残った」と言われることも増えているようです。

Tech Nite:エンジニアたちが交流する場

Shippioが定期的に開催している「Tech Nite」は、エンジニア同士が直接交流できる場です。グローバルなエンジニアコミュニティを盛り上げるために企画され、これまでに5回開催されています。Shippioのエンジニアや他社のエンジニアがライトニングトーク(短いプレゼンテーション)を行い、その後参加者と交流する形式です。グローバルなエンジニア組織を有する他社様と共同で開催をすることもあります。開催は約4ヶ月に1度のペースで開催されているそうですが、イベントを継続するのは簡単なことではありません。オフィスにあるオープンスペースを活用できるのは大きなメリットですが、それでもエンジニアメンバーの協力が不可欠です。Shippioはどのようにしてエンジニアを採用に巻き込んでいるのでしょうか?

まずプレゼンテーションが得意なメンバーや、パブリックスピーキングを好むメンバーに、率先して発信してもらえるようお願いをしているそうです。またエンジニアにも、優秀な人や気の合う人と一緒に働きたいという思いは強くあります。イベントを通じて直接参加者と話すことが、採用に深く関わろうという意識が生まれるきっかけになっています。実際に、TokyoDevを通じて採用された方も、このイベントに参加してチームメンバーと話し、素晴らしい雰囲気だったと話していたそうです。面接の場ではない、カジュアルな会話が、良い関係を築くための重要な要素となっています。

Tech Blog:継続するための工夫

イベントと同様に、ブログの継続も採用広報における大きな施策です。グローバル組織としての特性や、チームで取り組んでいること、カルチャーを広く知ってもらうために、Shippioではエンジニアメンバーが英語でのブログ発信も始めました。約2年間、そのTech Blogを続けていますが、これも牽引するリーダー的な存在がいてこそ成り立っています。3〜4ヶ月ごとにブログの「盛り上げ役」を決め、日本人と外国籍エンジニアが交互に担当することで、バランスの取れたブログ運営を実現しています。

また人事側からもエンジニアたちに順番で執筆をお願いし、忙しいメンバーには個別に声をかけて巻き込むなど、うまく回るように細やかな調整もしているそうです。

多様性を力に変える組織作りのヒント

Shippioは創業当初から、外国籍メンバーがいるのが「普通」の環境でした。グローバルな人材が集まり、多様な文化が共存するこの組織をこれからも積極的に成長させていく方針だと言います。

Shippioが外国籍エンジニアの採用やグローバルチームの構築で培ってきた経験をもとに、重要だと感じていることをお伺いしました。それは「丁寧なコミュニケーションが全て」ということです。

異なる国籍の人々が集まれば、文化や価値観の違いから「当たり前」の感覚がズレることがよくあります。だからこそ、「これは言わなくてもわかるだろう」と思うことでも、しっかりと説明し、ミスマッチを防ぐ努力が必要です。いわゆるローコンテクストなコミュニケーションを体現されています。Shippioでは、コミュニケーションの機会を増やし、互いを理解し合うための会話を重ねることに重きを置いています。

候補者に対しても、細かいリマインドや確認を欠かしません。メールでの小さな確認事項でも、しっかりとコミュニケーションを取ることで信頼関係を築いているのです。こうした積み重ねが、Shippioの成長を支える重要な要素となっています。

Shippioがこれまで成功を収めてきた理由は、試行錯誤を重ねながら、基本的なことを丁寧に実行してきたことにあります。これに加えて、採用広報やチームづくりに力を注ぐことで、さらに成長を加速させてきました。こうしたShippioの考え方や取り組みは、他の企業にとっても参考になるのではないでしょうか。

著者について

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髙木早弥奈

グローバル採用コンサルタント

2019年から人材業界に携わっています。様々な国籍のソフトウェアエンジニアの日本での就職サポートを強みにしています。

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