UK発のKrakenが日本で急成長:グローバル戦略と働きやすさの秘密とは

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髙木早弥奈

グローバル採用コンサルタント

Krakenは、エネルギー業界をテクノロジーの力で変革し、よりクリーンな未来を目指す企業です。2016年創業当時はグループ会社であるオクトパスエナジーの電力事業を支えるソフトウェアとして成長してきましたが、2018年頃から外部のエネルギー企業にも導入されるようになり、独立した事業として本格的に活動を開始しました。

Krakenの開発チームはイギリスを中心にスタートし、日本では2021年5月に最初の社員が入社しました。今では日本のチームも社員数が120名と急成長し、そのうちエンジニアは80名を超えます。またエンジニアチームの約90%は外国籍のメンバーです。

今回はそんな急成長中のさなかにあるKrakenのグローバルなエンジニアチームについて、人事の鈴木さんにお話を伺いました。鈴木さんは2023年3月に入社されました。ちょうどクライアント向けのプロジェクトチームの立ち上げ期で、日本で採用担当第一人者としてエンジニア、プロジェクトチームの採用を牽引した当事者です。入社時点では日本チームが40人ほどでしたが、約1年半で3倍の規模への成長に貢献されてきました。

本記事では、Krakenの日本の開発チームがどのように成長を遂げてきたのか、そして働きやすい環境を作り出すための取り組みを紹介します。Krakenの独自のカルチャーや、採用や働き方に関するUK発の考え方は、日本企業にとっても参考になるのではないでしょうか。

KrakenのAPACタレントリードである鈴木さん(前列右)にお話をお伺いしました。
KrakenのAPACタレントリードである鈴木さん(前列右)にお話をお伺いしました。

Krakenが日本に開発チームを置く理由

外資系企業の多くは開発チームを本国に置き、日本には営業やマーケティング部門だけを設置することが一般的です。しかし、Krakenは日本にも本格的な開発チームを構えています。鈴木さんによると、それには2つの理由があるといいます。

広範囲をカバーするプロダクトだから

一つ目の大きな理由は、Krakenのプロダクトが一般的なSaaS企業が提供するものとは異なり、非常に広範囲をカバーしていることだといいます。普通のSaaS企業では、契約後にインストールをしたり、簡単なデータをセットアップして終わることが多い中、Krakenの場合は大規模なデータマイグレーションが必要です。そして、ただ既存システムをリプレースするのではなく、お客様が実現したいことを成し遂げるために、業務改革まで行うため長期にわたるサポートが求められます。データミグレーション自体は数ヶ月から、大規模なプロジェクトですと1年程度ですが、それ以上に新しい機能の開発をしたり、よりお客様の事業の成長に寄り添えるフレキシビリティが提供できるように、イギリス本社だけでなく日本にも開発チームが必要なのです。

日本の大規模な顧客に素早く対応するため

もう一つの理由は、日本の顧客に迅速に対応するためです。たとえば、東京ガスはKrakenの重要な顧客の一社です。緊急時にはすぐにバグ修正やトラブルシューティングが必要になることがあり、素早く対応するためにはチーム体制を整える必要があります。

また日本の電力市場に関連する「インダストリー」と呼ばれるチームでは、日本語の書類理解やシステム理解が不可欠です。日本のシステムを日本語で的確に理解した上で開発を行うプロジェクトにおいては、日本国内にいるエンジニアチームが非常に重要な役割を果たします。そのため、今後も日本のエンジニアチームをさらに強化していく予定だと鈴木さんはいいます。

グローバル連携が生む新たな力:Krakenのユニークなチーム編成

これまでKrakenでは各国にチームを設け、その国のお客様を担当してきました。しかし、2024年5月からはチーム編成を大きく変革し、現在は世界中のエンジニアが一つのグローバルチームとして連携しています。この新たなチーム編成は、どのような効果をもたらしているのでしょうか?

国境を越えたプロダクトファーストのアプローチ

2024年5月から「プロダクトモデル」を採用し、国ごとに分かれていたチーム編成を廃止し、グローバルチームに移行したKraken。今では、日本オフィスのエンジニアも世界中のメンバーと共にプロジェクトに取り組んでいます。例えば東京ガス向けのプロジェクトチームにはオーストラリアを拠点にするメンバーもおり、チームメンバーも上司も様々な国から集まるそうです。

これは、作業の重複やサイロ化を減らして効率を高め、プロダクトファーストの考え方に転換するためだと鈴木さんはいいます。プロダクトのコアな部分は全世界のお客様が使えるように設計しつつ、地域ごとに必要な部分やお客様ごとの特定のニーズは分けて開発を行っているそうです。この方法により、お客様ごとのカスタマイズを最小限にしつつ、グローバルな視点でプロダクト開発を進められるというメリットがあるそうです。

プロダクトの機能開発は基本的には様々な国に在籍しているプロダクトチームが担当しているため、お客様から依頼された機能がそのお客様特有のものなのか、世界中で必要とされるものなのかを判断します。内容によっては日本のお客様特有のニーズもあるため、そのような場合は日本にいるエンジニアチームが効率的に開発を進めます。このようにKrakenでは重複作業を減らし効率化を図ることに加え、プロダクトファーストのマインドセットを持つための体制を整えられるよう、改善を重ねているそうです。

Krakenならではの採用の工夫

グローバルなチームで働けるメンバーの採用において、Krakenはダイレクトリクルーティングに力を入れています。また、優秀なエンジニアを集めるために、イベントやカルチャーを重視した採用方針を設けています。具体的には、次のような工夫をしているそうです。

ダイレクトリクルーティングを成功させるために

Krakenのエンジニア採用の大きな特徴は、半分以上が直接応募だということです。特に外国籍のエンジニアに対するKrakenのブランド力は強く、イベント参加やブランディング活動を通じてエンジニアからの関心を集めることに成功しています。例えば、PythonやDjangoに関する外部の技術イベントやハッカソンに参加することで、エンジニアと接点を持ってきました。今後はKraken主催でカジュアルな交流イベントを企画し、オフィスに招くことでKrakenを身近に感じてもらったり、交流することでKrakenのカルチャーを知ってもらうことを目指しているそうです。

Krakenのエンジニアのポジションでは、ビジネスレベル以上の英語スキルが求められます。そのため、自然と外国籍のエンジニアからの応募が多い傾向にあるといいます。ただ、日本語が必要なポジションには応募者が少ない場合もあるため、ターゲットを絞りヘッドハンティング的な採用活動を行うこともあるそうです。

Krakenの採用方針の基本は、国籍に関係なく、エンジニアとしてのスキルとカルチャーフィットを重視することす。バイアスをできるだけ排除した上で、Krakenの価値観や仕事の進め方に合うかどうかを見極めることに重きを置いていると鈴木さんはいいます。

求人票にも独自の工夫

Krakenの求人票には、「要件を100%満たしていなくても応募してください」という日本では他にあまり見られない記載があります。他にも、「選考において差別をしない」というメッセージも明記されています。

Krakenではスキルを重視した採用を行っているため、面接中に年齢や個々の事情などについては一切聞かないと鈴木さんはいいます。また「要件を100%満たす必要はない」と書いているのは、単純な条件のみで応募者を絞り込むのではなく、その人の能力をしっかりと見極めたいという考えからきているものだそうです。

またスキル重視の方針とはいえが、経験年数にはこだわらないという姿勢も特徴的です。多くの企業では「〇年以上の経験」という条件を設けていますが、Krakenにはその基準はありません。例えば、シニアエンジニアには10年以上の経験がある人もいれば、3年程度の経験でシニアとして活躍している人もいます。重要なのは経験年数ではなく、必要なスキルを持っているかどうかだといいます。

エンジニア採用におけるベースラインは特定の技術を扱えることですが、チームにどのように貢献できるか、どのような新しい可能性をもたらせるかを、それ以上に重視しているそうです。そのためKrakenではコンピテンシーベースの面接を実施しています。つまり、個々の要件を1つずつ確認するのではなく、持っているスキルセット全体を評価しているということです。わかりやすく言うと「ボックスをチェックするようなスクリーニングは行わないことです」と鈴木さんはいいます。面接形式も行動と仮定に基づいたオープンクエスチョンで行い、なるべく自由に答えてもらえるように構成されてるそうです。

コンピテンシーとは?

コンピテンシーとは、業務を遂行するために必要な知識、スキル、行動特性を指し、具体的な成果や状況対応力を重視することです。要件ベースの評価では学歴や経験年数など、形式的な条件を満たしているかどうかに焦点を当てる一方、コンピテンシーベースでは、応募者が実際の業務でどのようにこれらの能力を発揮するかを評価します。つまり、コンピテンシーは実際の能力やパフォーマンスを重視するのが特徴です。

カルチャーとビジョンを大事にした採用

Krakenで優秀なエンジニアを獲得でき、、入社後の社員のパフォーマンスも高い理由として、カルチャーとビジョンを大事にした採用があると鈴木さんはいいます。

Krakenのカルチャーは自由だと言われますが、ただ自由なわけではありません。その自由な環境の中で、社員が新しい視点を生み出すことが期待されています。採用の段階から会社のビジョンに共感する人材を選ぶ努力を重ねた結果、マニュアルがなくても自発的に動くことのできる社員に恵まれているといいます。

変化のスピードが速いKrakenでは、昨日と今日で全く違う業務に取り組むことも日常茶飯事です。この変化を楽しみ、成長の一環として捉えられる人材を求めていることが明確だからこそ、カルチャーフィットを重視した採用方法がうまくいき、結果的に会社全体の成長に繋がっているのです。

Krakenが働きやすい会社である理由

Krakenの働きやすさに対する取り組みもまた、一般的な日本企業とは異なります。特にワークライフバランスの実現に注力し、社員が最大限の力を発揮できるように工夫されています。その具体的な制度や文化を紹介します。

無制限の休暇制度「Unlimited Holiday」

Krakenでは、全社員が利用できる「Unlimited Holiday」(無制限休暇制度)を導入しています。この制度により、社員はフレキシブルに休暇を取得でき、例えば数週間の母国への帰省も可能です。また時差の問題がクリアできる限り、帰省中に例えばリモートで午後から働きたいなど、基本的には自由に働ける形になっているそうです。

また、産休・育休も手厚くサポートされており、Krakenからは出産される方は18週間、セカンドケアラーは12週間の育休(全額支給)が提供されます。30代のエンジニアが多く、最近は男性の育休取得が増加しているそうです。2023年には代表社員である日本のCOOも育休を取得しました。1ヵ月前に急な社内アナウンスがあり、休業中はほぼ完全にオフラインとなったそうですが、社内に大きな混乱はなかったといいます。COOがいないと決定者不在の状況になりがちですが、Krakenでは社員一人ひとりが自分で何が最善かを考え、動ける文化が根付いているからです。通常は大きな引き継ぎや準備が必要ですが、そういったこともほとんど不要だったため、Krakenならではと感じたと鈴木さんは語ります。

厳しい時間管理やKPIがない

Krakenではフルフレックス制度を採用しており、深夜帯(22時から5時)以外は、好きな時間に仕事ができます。たとえば、日中にジムに行ったり、子どもの習い事に付き添ったりすることも可能です。カレンダーに「不在」を記録するだけで、上司に特別な申請は不要だそうです。

従業員数が50名を超えているため、法律に従いタイムシートを導入していますが、厳密な時間管理は行っていないといいます。労働時間よりもアウトプットの質を重視する文化が根付いており、信頼関係が強く、それが高いパフォーマンスに繋がっているそうです。

外資企業で経験を積んだ鈴木さんでも、Krakenは特に自由度が高いといいます。KPIが存在しないことも、Krakenのユニークな点の一つです。

KPIがなくとも、社員一人ひとりが自分自身の視野を広く持ち、周りの環境やお客様のことを考え、個人的な利益ではなく大きな課題に向けて取り組んでいるそうです。

グローバル全員にエクイティを付与

Krakenは、全社員にエクイティ(株式)の一部を提供しています。これは社員一人ひとりが会社のオーナーシップを持つことを意味します。現時点ではプライベートシェアですが、将来的に上場を目指しており、会社の利益を考えながら働くモチベーションにつながっていると鈴木さんはいいます。

ユニコーン企業として急成長を遂げるKrakenでは、時価総額が90億USドルを超えており、今後さらに成長が見込まれています。数年で2倍になるともいわれる会社で、社員はその成長を実感しながら、働くことができているといいます。

UK発ユニコーン企業から日本企業が学べること

Krakenはスタートアップとして新しいカルチャーを持ちながらも、企業としては急成長を遂げ、エンタープライズ企業に近づきつつあります。「この成長の波を社員一人ひとりが実感しながら働くことができる非常に楽しい時期にある」と鈴木さんは語ります。

今回、UK発のユニコーン企業であるKrakenの話を通して、日本の企業とは異なる考え方や取り組み方に触れることができました。この記事が、読者の皆様に新しい視点を提供し、自社に合った働き方や取り組みを検討する一つのきっかけになれば幸いです。

著者について

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髙木早弥奈

グローバル採用コンサルタント

2019年から人材業界に携わっています。様々な国籍のソフトウェアエンジニアの日本での就職サポートを強みにしています。

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