夜7時を過ぎると、他の会社ではまだ電気がついているのに、Yarakuのオフィスは真っ暗。フルリモートワークを始める前は、こんなことがよく起きていたとYarakuの人事担当者である中山さんはいいます。遅くまでオフィスに残っていると、「何してるの?早く帰りなよ」と声をかけられることもよくあったそうです。
また、勤務時間外にミーティングが入ると、メンバーは「勤務時間外だからその時間は出席できません」とはっきり言うそうです。日本の企業ではなかなか言いにくいことでも、Yarakuではみんなが自由に意見を言える環境があるのです。
こうしたYarakuの働きやすさを実現できたのは、CTOのヨナス・リィデンハグ氏の影響が大きいと、エンジニア採用を担当されている巽さんは話します。リィデンハグ氏は入社後、働きやすさを重視することを提案。そこから、その土壌が整い始め、それがやがて優秀な人材を惹きつけ、組織全体の成長にもつながっていきました。「働きやすさ」を大切にすることこそが、Yarakuのチームの拡大に大きく寄与したのです。オンとオフをしっかり分ける文化があり、残業が少ないという点を採用初期の段階からアピールしていたそうです。それが、日本で働きたい外国籍エンジニアにとって魅力的だったと中山さんは感じています。

働き方が自由だからこそ、Yarakuではチーム内のコミュニケーションをとりわけ大切にしています。場合によっては「ちょっとサボっているんじゃないか」と思われるような場面でも、Yarakuでは「なぜこうなってるの?」「どうしたらできるようになる?」といった前向きなコミュニケーションが行われています。つまり、相手の評価を下げるのなく、一緒に改善策を考える提案のようなコミュニケーションが活発で、そうした協力的な社風がYarakuで働く上で最大の魅力になっています。

Yarakuは「グローバルコミュニケーションを楽しく。」をミッションに掲げ、AI翻訳ツールの開発を行っている会社です。事業内容を聞くと、メンバーが外国語を話せることが必須で、だからグローバルなエンジニアチームが構築されたのかと思いきや、実は代表の好奇心がきっかけだったといいます。代表の坂西氏はYaraku創業前にアメリカへ渡り、多国籍な環境で働きました。この経験で色々なバックグラウンドを持つ人たちと一緒に働く楽しさに気づいたのだそう。「自分の会社にグローバルなエンジニアチームを作るとどうなるのだろう。」そんな代表の好奇心から生まれたYarakuのエンジニアチームはどのように成長していったのでしょう。
スウェーデン出身CTOが影響を与えたYarakuのカルチャー
多国籍なメンバーが揃うYarakuのエンジニアチームにとって、CTOのリィデンハグ氏は欠かせない存在です。リィデンハグ氏はスウェーデン出身のエンジニアで、前任の日本人CTOが退任した際にその役を引き継ぎました。
坂西氏が繰り返し話しているのは、リィデンハグ氏からの学びがYarakuのカルチャーに大きく影響を与えたということです。創業期の坂西氏は「スタートアップらしくもっと働いて成果を上げよう」という姿勢でした。しかし、リィデンハグ氏は「プライベートと仕事のバランスを取ることが大事だ」と提案。この二人の対話を通じて、日本とヨーロッパの文化が融合した新しい働き方が少しずつ築かれていったのです。
リィデンハグ氏がCTOとして会社の開発をリードするようになったことが、Yarakuがグローバルなエンジニアチームを構築する上で大きなターニングポイントだったと中山さんはいいます。英語でのコミュニケーションが必要になり、コードを書くスタイルも海外的なアプローチが取り入れられるようになりました。その結果、そうした文化になじみがある外国籍メンバーが次々と加わり、自然と多国籍チームが形成されていったのです。
どの会社でも開発の方針にはCTOの影響が現れます。Yarakuの場合も同じ。議論に感情を持ち込まない、オブジェクト指向を徹底するなど、CTOの考え方が方針の随所に反映されています。そして、それにフィットする人材を選ぶことが重要視されています。
巽さんによると、Yarakuのメンバーは「この人はうちのカルチャーに合わないな」という感覚を持ち合わせているため、面接の中でそれを確認しているそうです。落ち着いていて冷静で論理的な人。パーソナルスペースを尊重し、独立して働ける人。そして日本に対してポジティブな印象を持つ人が集まるのは、そうした見極めの感覚によるものだと考えられています。
Yarakuがエンジニアを選考するプロセスの中で、もう一つの特徴は「日本に興味があるかどうか」を重視していることです。どこでもいいから海外で働きたいと履歴書を送ってくる人ではなく、Yarakuが提供している「日本を楽しむ」という最大の価値をしっかり感じてくれる人に焦点を当てているのだといいます。
言いたいことを素直に言えるグローバルチームの魅力
率直な意見を取り入れた働きやすい環境
中山さんは人事の担当者として、自社のグローバルチームの魅力を話します。「外国籍のメンバーの困りごとを率直に伝えてくれます。だからこそ、彼らにとって働きやすい環境が整えられています。」たとえば、Yarakuには年間30日間、海外でリモートワークができる制度があります。これも「帰省するのに往復で4日もかかる。だから有給を使っても実質的に休む時間をほとんど取れない」という海外出身の社員たちの声から生まれました。日本に来て働く彼らの声を直接聞けることで、柔軟なリモートワーク制度の導入につながったのです。こういったプライベートを重視する制度により、毎月世界中から数百人がYarakuに応募しているそうです。
また、すぐ隣に座っている外国籍のエンジニアが「フロー状態を保ちたいから絶対に話しかけないでほしい」と率直に伝えてくれたこともあったと中山さんはいいます。エンジニアでなければわかりにくい希望もはっきりと伝えてくれたからこそ、よりエンジニアが働きやすい環境を整えることができたのです。
もう一つ、風通しがいい雰囲気が作られている点も、巽さんは魅力に挙げます。例えば「今日は17時に帰る」とエンジニアたちは当たり前に言うのだそう。日本人があまり言わないようなこともはっきり言う外国籍メンバーの姿勢は、幕末に西洋文化が日本に入り大きく変わったような感覚に近いのでは、と巽さんは話します。日本では残業を減らしたいと思っても周囲の圧力に負けてしまうことがよくあります。こうした「変化の風」が吹き込まれることで、周りも変わりやすくということを、Yarakuでは体現されているのです。
最新技術を取り入れるグローバルメンバーが支える事業成長
グローバルチームにおけるもう一つのメリットは、常に最新の技術情報をキャッチアップできる点だと巽さんはいいます。巽さんが他の開発会社で働いていた時も、外国籍のエンジニアたちから「今こういうのがトレンドで、これが世界の流れなんだ」と教えてもらうことが多かったそうです。また日本人のCTOが彼らに「今の技術トレンドはどうなっているの?」と聞くことも多かったそうです。最新技術に関する情報は英語で入手できることが圧倒的に多く、情報の非対称性があることがその背景にはあります。新しいツールも日本のツールではないことがほとんどです。Yarakuでも同様に、外国籍メンバーが多くいることで開発の最新トレンドを追って技術を取り入れることができているといいます。
10年で低くなった言語の壁
10年前のグローバルチームの最大の課題は言語の壁だったと言います。しかし今では、ChatGPTのようなAIやYarakuが開発した翻訳ツールもあります。「英語ができない」「日本語を話せない」などといった言語の壁は口頭でのコミュニケーションに限られるようになりました。テキストでのコミュニケーションが中心であるエンジニアチームにおいては、このテクノロジーの進展は非常に大きな意味を持ちます。エンジニアたちは使用言語に関わらず、テキストを通じてスムーズに仕事を進められる環境が整ってきたからです。
おわりに
Yarakuは翻訳に関連する事業をしていることもあり、外国語を話せるメンバーの存在が業務をする上ではプラスだと考えることもできます。しかし実際は、それはあくまで副次的な理由で、もっと純粋に「多様な人と働きたい」という代表の思いからYarakuのグローバルチームは生まれたのだというストーリーを知ることができました。今回ご紹介したYarakuの多国籍チームの事例が参考になればと思います。