今回お話を聞いたのは、AutifyのVPoEを務めるトーマス・サントンジャさんです。サントンジャさん自身も、かつて海外から日本の企業に採用され、その難しさを身をもって理解しているため、多くの外国籍エンジニアが生き生きと働ける環境をAutifyが作り出せていることに深い誇りを感じていると語ります。「Autifyのような素晴らしい文化とマインドセットを持っている企業は本当に珍しい」とサントンジャさんが語るAutifyの魅力はどこにあるのでしょうか。
優秀なエンジニアが世界中からAutifyに集まる理由
Autifyのエンジニアチームは2024年11月時点で43人、そのうち31人が外国籍です。出身地も多岐にわたり、パキスタン、中国、インドネシア、アメリカ、ロシア、フランス、インド、イギリス、イスラエル、カナダ、フィリピンなど、世界中から優秀な人材が集まっています。
多くの日本の大企業にはない柔軟性
サントンジャさんが2011年から日本で働いてきた経験から言えるのは、外国人にとって日本の伝統的な大企業に入るのは非常に難しいということ。もちろん例外企業はあるものの、歴史ある日本の大企業に外国籍の人が採用される可能性はほとんどなく、非常に挑戦的だといいます。また、長時間労働や出社が求められたり、会社内での政治的な駆け引きも多く、エンジニアがイノベーションの創造に自由にトライする環境が整っているとは言い難いと感じているそうです。
一方で、スタートアップ企業では、より柔軟で協力的な文化が築かれており、特に若いエンジニアや意欲的な人材にとって魅力的な選択肢となります。「Autifyでは、誰かが24時間あなたの背後に立って指示を出すようなことはありません。夜9時に働きたければそうすればいいし、朝10時から仕事を始めても問題ありません。結果さえ出せれば、働き方は自由です」と語るサントンジャさん。こうしたスタートアップならではの柔軟性と、エンジニアリングへの強いフォーカスこそが、他の多くの日本企業と一線を画するAutifyの最大の魅力だと言えます。
エンジニアリングへの深いコミットメント
Autifyのもう一つの大きな特徴は、そのエンジニアリング志向の文化です。「Autifyは製品そのものがエンジニアによって作られ、エンジニアのために設計されています。このエンジニアリング志向がすべての面で貫かれているのが特徴です。」とサントンジャさんは話します。リモート環境でのチームワークを促進し自由に時間を使えるようにして生産性の高い働き方をしながら、明確な方向性を示すことでタスクにかかる時間を大幅に削減しているのです。またエンジニアリングの本質は問題解決であることから、イノベーションを生むための取り組みを積極的に行っているといいます。例えば、チームを超えたコラボレーションや、設計におけるボトムアップ型のアプローチ、さらには実際に新しいプロダクト機能を生み出したこともあるハッカソン等を積極的に行い、これらすべてがAutifyのカルチャーの一部になっています。
さらに、Autifyは給与だけではなく、社員の生活の質の向上や技術革新への貢献、エキサイティングなプロジェクトへの参加といった点にも価値を置き、社員の満足度を高めることに注力しています。Autifyでは必要なときにいつでも休めるようサポートをしており、急な休みや長期休暇でも柔軟に取得でき、一人ひとりが人生を楽しみながらも、役割をきちんと果たせるよう支援しているのです。このような環境は、特に技術志向の高い人材にとって魅力的です。
環境の整備と国際的な視点を持つリーダー採用でグローバル化を推進
外国籍メンバーをチームに初めて迎える場合、まず取り組むべきことは、彼らが働きやすい文化を構築することです。これが最大の障壁であり、成功への鍵となります。社員が安心して働ける環境を整えることが非常に重要ですが、まず個々の違いを理解し、文化や特性を尊重することが大切です。例えば柔軟な勤務日を設けたり、専用のスペースを用意すると言ったインフラ的な側面もあれば、政治的な意見や個人的な信念の対立を避けるため、公の場所では業務外の話題を控えるようにするといったこともポイントだといいます。これは明確なコミュニケーションのルールを設けることにもつながります。一方でチーム内の交流を促進するためのイベントや交流は、積極的に企画し実行していくのが良いとサントンジャさんはいいます。
これらに加え、グローバルチームを効果的に作るには、まずはトップレベルの人材を採用するのが最善の戦略だとサントンジャさんは考えます。このトップレベルの人材は、必ずしも外国籍である必要はありません。重要なのは、国際的な視点を持ち、その経験から得た知識を活用してチームを構築できる能力だからです。
オープンな文化を取り入れる
サントンジャさんはフランス出身ですが、これまでオーストラリア、フランス、日本、カナダで働き、さらにアメリカ、インド、ドイツ、イギリスといった国々でも短期間ながら仕事をした経験を持つ、まさにグローバルリーダーです。
「カナダ人やアメリカ人のメンバーは、なぜこうするのか、どうすればいいのかを積極的に声に出して議論し、他の人の意見を引き出そうとする傾向が見られます。」とサントンジャさんはいいます。こうした働きかけにより、多様性を受け入れるオープンな文化や、異なる視点を歓迎する土壌が作り上げられるのです。
Autifyに魅力を感じるエンジニアとは
現在、Autifyには楽天やAmazonなど、日本や世界の大手企業での勤務経験者が多く在籍しています。彼らの中には、大手企業の安定性に魅力を感じつつも、過度なストレスや自由度の少ない環境に不満を抱いていた人も少なくありません。一方で、スタートアップには不安定さがあります。でも、自分の好きなことに集中し、楽しい仕事ができる環境が整っています。
「人によって向き不向きはありますが、Autifyのようなスタートアップは、自分の技術を試し、力を発揮できる場を求めている人にとって、非常に魅力的な選択肢だと思います。」とサントンジャさんはいいます。例えばAutifyでは、すべてのエンジニアが、自分やチームの成果をデモや全社ミーティングで発表する機会があるそうです。これによりエンジニアの会社への貢献が可視化され、こういった仕組みがさらに社員のエンゲージメントの向上につながっています。
スタートアップならではの柔軟性と技術志向が、Autifyが優秀な外国籍エンジニアに選ばれる理由であり、それが会社の成長にもつながっているのです。
グローバルチームがもたらすメリット
グローバルなエンジニアチームは会社やチームにどんなメリットをもたらすのか。サントンジャさんの考えを伺ってみたところ、大きく2つ挙げてくれました。
活発なディスカッションの場が生まれる
多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まると、さまざまな考え方や働き方がが交わり、そこから活発な議論が生まれます。そうして議論の質が飛躍的に向上することこそが多国籍チームの最大の魅力だと、サントンジャさんは強調します。何をすべきか、何を避けるべきか、そしてその理由について、日々多くの意見が交わされます。日本の職場ではこうした議論が行われることは稀だとサントンジャさんは感じています。トップダウンの指示に従う傾向が強く、意見が求められるとしても技術的な詳細に限られることが多いからです。そうした環境では、消極的に「とりあえずやる」という姿勢で進む場合も少なくありません。
一方、アメリカやカナダ出身のメンバーは議論に対して積極的です。進め方やプロセスについて意見を述べるだけでなく、他のメンバーの意見を引き出そうとする姿勢が見られます。この文化がチーム全体に根付くことで、ほとんどのメンバーが自由に発言し、議論に参加できる雰囲気が形成されていきます。そしてこのような環境が、イノベーションや問題解決の推進力になるのです。
海外採用で高まるエンゲージメントと定着
もう一つのメリットは、社員が安心して働ける環境を提供できることです。Autifyでは、海外在住のエンジニアを採用する際に、日本での就労ビザ取得の支援を行っています。これにより、社員は新しい環境にスムーズに適応しやすくなり、企業との信頼関係が築かれやすくなります。サントンジャさんによると、日本への移住を機に入社した社員の多くは、会社のサポートを受けながら長期的にキャリアを築く傾向があるそうです。
「技術・人文知識・国際業務ビザ」を持つ外国籍エンジニアは日本国内で転職が可能ですが、新しい職場を見つける必要があり、ビザの更新要件を満たすことが求められます。特に、初回のビザは1年で発行されるケースが多く、その後も1年または3年ごとの更新となることが一般的です。そのため、企業がビザ取得や生活面でのサポートを行うことは、社員にとっても大きな安心材料となり、エンゲージメントの向上につながるとサントンジャさんは感じています。こうした背景から、海外からの採用は企業・社員双方にとって大きなメリットがあるといいます。
日本の職場環境が抱える課題
多くの国でさまざまな国籍のメンバーと働いてきた経験を持つサントンジャさんは、日本の強みを認めつつも、その職場環境や働き方のマインドセットに課題を感じています。
「グローバルでオープンマインドな環境が自然と整うことはありません。変革には時間と根気が必要です」とサントンジャさんは語ります。
給与の不公平性と古いままの文化
日本の古い考え方が影響を及ぼしている一例として、給与の不公平を挙げます。例として、才能ある2人の社員に対して異なる給与を提示しているのを目にしたことがあると振り返ります。「異なる給与だとしても問題にはならないから」という合理的ではない理由が背景にあったとし、こうした不公平性が優秀な社員のエンゲージメントを低下させていると指摘します。
また、性別による給与差や国際的な採用における差別も、依然として根強い課題です。「同じ給与では他の人が不満に思うかもしれない」といった発想が、こうした不公平を助長しているのではないかとサントンジャさんは考えています。そして、こうした古い考え方が、変革への大きな障壁となっているのです。
リーダーシップと若い世代への期待
サントンジャさんはエンジニアからリーダーとなるキャリアを通じて、日本の古い考え方に直面してきました。「特に年配のリーダーが多い環境では、このような問題が顕著です」と彼は指摘します。
一方で、Autifyでは若いリーダーが多く、こうした課題はほとんど見られません。また、海外での経験を持つ若い世代については、よりオープンマインドなアプローチを持つ傾向があると期待を寄せています。
多様性の推進が日本の未来を明るくする
サントンジャさんは、多様性を受け入れるオープンな文化の中で、一つの部門を率いる機会を得られたことに感謝しながらも、「現在、私が働いているような環境が日本で多く存在するとは思えません」といいます。
多様性を推進するには、政策や意識改革だけでなく、リーダーの立場にある人々のバイアスを取り除く努力が必要です。才能に基づいて評価し、公平な職場環境を作ることが、次世代の日本を作る上で欠かせないのだとサントンジャさんの話から伝わります。
この記事では、サントンジャさんの視点から見た日本の課題とグローバルチームの可能性を紹介しました。Autifyがモデル企業となり、より多くの日本企業がグローバルな舞台で成長していくことを期待しています。