はじめに
「チームワークあふれる社会を創る」—このパーパスのもと、企業向け情報共有ツールを世に送り出してきたCybozu(サイボウズ)。しかし、その挑戦は日本国内だけに留まることなく、常に世界へと向けられています。グローバル展開では成功と失敗を経験しながらも、より多くのチームに価値を提供するために、Cybozuは新たな一歩を踏み出しました。
その挑戦の形として誕生したのが、New Business Divisionです。2022年に誕生し、今や約30名の才能あふれる国際的なメンバーが集結するこのチームは、外国籍エンジニアやデザイナーを中心に構築され、多様性が新たな価値を生み出す場となっています。
この記事では、日本国籍のメンバー中心の組織であったCybozuから新たな多国籍チームが生まれた経緯や、その採用や活躍のための取り組みをご紹介します。今後海外展開を考えられている企業や、グローバルなエンジニアリングチームを構築していこうと考えられる企業にとって、一つの有益な事例としてお伝えできたらと思います。
CybozuのNew Business Divisionとは?
New Business Divisionが立ち上がった経緯
Cybozuのメイン事業であるkintone、サイボウズ Garoon、サイボウズ Officeといったクラウドサービスは、日本国内および海外で310万人以上のユーザーに利用されるほどの成功を収めており、特に日本国内クラウドサービス市場においてその名を轟かせています。しかし、Cybozuの野望はここで満足することなく、世界の就労人口全体に目を向け、そのパーパスの実現に向けてさらなる一歩を踏み出しています。
実際、Cybozuの製品群の中には、ノーコードツール「kintone (キントーン)」のように、国境を越えて広く受け入れられている例もあります。kintoneは言語や地域のビジネス慣習に左右されることなく、企業が業務効率を向上させるためのツールとして活用されています。一方で、グループウェア「サイボウズ Office」は、2000年前半にアメリカ市場への挑戦したものの、ビジネス慣習のギャップを痛感し、撤退を余儀なくされた経験も持ちます。
このように1997年の創業から多くの挑戦を経て、2022年に新たな戦略として「New Business Division」が立ち上げられました。この部門は、単に既存の製品を海外市場に適応させるのではなく、初期からグローバル市場を視野に入れた製品開発および市場展開を進めるための戦略的な決断でした。
これまでの成功と失敗を糧に、CEO青野氏直下でNew Business Divisionが誕生し、グローバル市場をメインターゲットとした製品を生み出すための具体的な取り組みが進められています。
New Business Divisionの多様な組織とは?
CybozuのNew Business Divisionは2024年7月現在、組織は30名で9カ国のメンバーで構成されています。製品戦略の軸が固まってきたことで本格的なチーム作りも始動、約2年の間に急速に拡大しました。
現状はエンジニア・デザイナーが中心の組織であり、ビジネス側はCEOの青野氏と、Deputy General Manager of New Business Divisonの伊佐さんがリードをされています。組織内の日本国籍のメンバーは数名で、残りのメンバーは世界各国からの多様なバックグラウンドを持ったメンバーで構成されております。
New Business Divisionは基本的にはフルリモートワークが可能なチームです。しかしながら、オフラインの機会も重要視しており、自然と出社しオフラインで活発にコミュニケーションを取りながら仕事に取り組むメンバーも少なくありません。

外国籍エンジニア採用の背景?
Cybozuではこれまで日本国籍のメンバー中心の組織でしたが、このNew Business Divisionでは反対に外国籍メンバーが中心の組織です。一体なぜでしょうか?
外国籍メンバー中心の組織となったのは、プロダクトの観点と採用の観点で2つの理由がありました。
プロダクトの観点:
グローバル市場を狙った新製品を作ることが前提であったことから、国籍問わず多様な人材で構成された組織を作ることは自然なアイデアでした。特にプロダクトのフィードバックループを初期段階から英語圏市場において作ることを重視しました。
採用の観点:
採用候補の母集団を日本国内だけで考えるのではなく世界で考えると、候補者の数が大きく変わります。日本国内での優秀なエンジニアの採用は、Cybozuだけではなくどこの会社にとっても難しくなってきています。Cybozuが本当に求めているチームを作るためには、日本語の要件を諦めることで可能なのではないかと考えられました。というのも、日本語があまりできない方からの応募はそれまでもあり、チームとしての受け入れ態勢の問題で採用ができていなかったためです。
この2つの理由から、New Business Divisionではday1から多国籍な組織とグローバル市場への挑戦が始まりました。
Cybozuにおけるグローバル組織作りの道のり
受け入れ態勢強化のための『YOKOSOプロジェクト』
New Business Divisionが立ち上がるまでは日本の拠点において日本語が流暢ではない外国籍メンバーの採用をほとんど行ってこなかった背景として、受け入れ態勢がまだ万全ではなかったことが大きな理由として挙げられます。そこで外国籍メンバーの受け入れ態勢を強化するために、『YOKOSOプロジェクト』というオンボーディングプロジェクトが立ち上がりました。
Cybozuは1,400名程の従業員を抱える大企業です。New Business Divisionはその中の1チームであり、例えば人事部など、他部署からの支援がなくてはなりません。会社のポリシーに関するドキュメントは全て日本語で作成されていますが、YOKOSOプロジェクトによって社内における最低限必要なドキュメントが半年かけて英語でも閲覧可能になりました。
New Business Divisionでの採用人数だけで考えると、優先度の観点で取り組むことができなかったかもしれません。ですが英語でのオンボーディングチームを専任で作るという積極的な意思決定がなされました。幸いなことにCybozuはこれまでも海外展開をしていたことから、通訳・翻訳チームの支援があり、もちろん苦労はあったもののこれを比較的スムーズに進めることができました。
通訳・翻訳のチームもここ数年でできたチームであり、海外への製品展開を強化する上で多言語化が一つの課題であったことから、それを解決することを目的に作られました。ビジネス用に社外向けの翻訳はもちろん、海外拠点もあることから社内向けの文書やコミュニケーションの橋渡しとして機能しています。

New Business Divisionにおけるチームワークの促進とは
多様性を活かしたチームワーク最大化のための工夫
Cybozuはそのパーパスの通り、チームワークを重んじる会社です。チームで議論し円滑に仕事を進めるのための豊富なナレッジを持っています。これをチーム内でも勉強し、みんなで意見を出しあいながらレベルアップを図っています。
New Business Divisionはday1からグローバル組織としてスタートしたため、最初からチーム内の公用語は英語でした。それでも多様なバックグラウンドを持ち、英語のレベルも違うことから、コミュニケーションに配慮したチーム作りをされています。
同じ英単語でも、多様なバックグラウンドを持つメンバーそれぞれで単語の受け取り方が変わります。そこで、よく使われる単語はチーム内で定義されています。
例えばSMBというキーワードがあります。Small and Medium Businessのことで中堅・中小企業のことを指しますが、実際には従業員何名くらいの会社のことを指すかは会社毎に考えが異なります。これがきちんと数字で定義されています。
またPMFも同様です。プロダクトマーケットフィットと呼ばれ便利に使われる言葉ですが、実際にはどのフェーズのことを指しているのか人によって定義がばらばらです。これまでの仕事環境やキャリアによっても言葉の使われ方が違うため、少しでもずれていると感じたら定義をし直すようにされています。このようにShared Language/Common Languageを積み上げていく取り組みにより、チーム内での共通認識が取れスムーズなコミュニケーションにつながっています。
多様性が生む文化交流
Cybozuの文化の一つに、社内コミュニケーションを活発にするため、チームメンバーが仕事に関連することに限らず、個人のアクティビティを発信するというものがあります。例えばある外国籍のメンバーの一人がチャットでその日の食事である海外のローカルフードを紹介すると、他のメンバーがGoogleで調べ、料理の名前や素材を質問したりする会話が始まることがあります。羊のしっぽという日本(他の国でもそうかもしれませんが)では馴染みのないものに驚いたり、そこからチーム内で話が盛り上がるということもありそうです。またオフィスにあるキッチンを使って、自身の得意な食事やスイーツを作ってチームに提供しているメンバーもいます。
多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まることから、文化交流ができて楽しいという意見がメンバーからよく聞かれるそうです。
このように、様々なバックグラウンドを持つメンバーが一堂に会し、チームワーク強化の工夫や日々のコミュニケーションを大事にされていることが分かります。互いの文化を理解し合う楽しさを共有し、それが仕事のクリエイティビティや生産性向上にもつながっているのではないでしょうか。
New Business Divisionの今後の挑戦
Cybozuは創業から約30年が経過し、日本における大きなプレゼンスを持っています。しかしながらNew Business Divisionはまさにスタートアップのような挑戦している組織です。
現在開発しているプロダクトを市場に出し、市場と対話しながらプロダクトを成長させるというのが今のNew Business Divisionのフェーズです。今はエンジニア、デザイナーが中心の組織ですが、今後はビジネスサイドのメンバーや運用やサポートチームの組織化も進む予定です。
おわりに
今回New Business DivisionのDeputy General Manager of New Business Divisonである伊佐さんと、その成長をHRから支える人事本部 Recruiting部 部長 兼 Teamwork Design部 Business Partnerの武内さんにお話をお伺いした内容を、記事にまとめさせて頂きました。最後にお2人のお話で特に印象的だった部分について紹介させて頂きたいと思います。
Cybozuの文化に根差したマネジメントポリシー
伊佐さんのマネジメントポリシーについてのお話がとても印象的でした。
伊佐さんは「お互いに人生の貴重な時間を仕事に使っているので、人生を通して一番有益な時間だったと思えるようにしたい。一緒に働いてくれるチームの皆さんにも、ここで過ごした時間が人生においてプラスになったと感じてほしい」と語ります。
このような考え方がCybozuの文化に深く根ざし、優れた人材を引き寄せ、素晴らしいチームを形成する原動力となっているのではないかと感じました。
日本企業から海外展開を実現したいという想い
また、武内さんからは、Cybozuが日本の企業として海外に展開していくところに貢献したいという強い想いを感じました。過去にはグローバル市場での展開に苦労もありましたが、New Business Divisionが成功すれば、Cybozuの海外展開は大きく飛躍すると期待されていらっしゃいます。今は新しいプロダクトを市場に出す、非常にエキサイティングなフェーズにあり、今後更に大きくなっていく組織を一緒に作っていけることにワクワクされているのが印象的でした。
New Business Divisionのグローバルエンジニアリングチームの構築に関する取り組みを参考に、ぜひ多くの企業がCybozuのような挑戦に一歩踏み出して頂けたらと思います。
