外国籍エンジニアが取得できるビザの種類とは?

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マクマホン・ポール

代表取締役

はじめに

外国籍エンジニアの就労ビザ取得をサポートし、自社で雇用するのはハードルが高いと考えていませんか?実は、日本では就労ビザの取得支援に費用はほとんどかかりません。ビザの発給数に制限があるわけでもなく、就労ビザ取得に必要な要件も特段厳しくありません。つまり、他国に比べると、比較的簡単に外国籍エンジニアを雇用できる環境にあるのです。

外国籍エンジニアを日本で雇用する場合、「技術・人文知識・国際業務」という在留資格に申請・取得してもらうのが一般的です。これは、コンピュータサイエンスやソフトウェアエンジニアリングに関連する学位を持っている外国人であれば意外と容易に取得できます。

ただ、非常に優秀なエンジニアであっても、大学で関連学位を取得している人ばかりではありません。最近は、ブートキャンプでコーディングの知識を得たという人も珍しくなく、今後はそういった外国籍エンジニアはますます増えていくでしょう。もちろん、エンジニアというポジションに関連する学位を持っていなくても、日本で働くための在留資格を取得することは可能です。しかし、その候補者に適している在留資格を見極めることは、学位を取得しているエンジニアの場合よりも難しくなります。

候補者が取得できる可能性がある在留資格にはどんな種類があるのか。そして、それぞれどんな要件なのか。外国籍エンジニアを採用したいと考えていても、そういったことをすべて把握できている日本企業は多くありません。だからこそ、国外のエンジニアを採用したい日本企業にとって、候補者の経歴に適した在留資格を社内で判断でき、就労ビザ取得をサポートできるように体制を整えることが重要です。他社が「ビザの資格を満たしていない」と候補から外した優秀なエンジニアを、自社で採用できるチャンスが高くなる可能性があるからです。

この記事では、外国籍エンジニアのビザ取得を支援し、フルタイムで雇用するために必要な情報を詳しく説明しています。ですが私は在留資格申請に関する専門家ではありません。記載した内容については出入国在留管理局にできる限りの事実確認をしましたが、社内でも最終的な確認をするようにしてください。

本記事では下記のようなケースを紹介しています。

なお、本記事では日本人の配偶者がいるなど特定の人間関係に基づくケースや、留学生がバイトとして働く場合については解説していません。

エンジニアリングに関連する大学学位を持っている外国人

冒頭で触れたとおり、外国人をソフトウェアエンジニアとして自社で採用する場合、関連する大学で学士号を取得した外国人を「技術・人文知識・国際業務」ビザで雇用するのがもっとも一般的です。

ビザの要件を満たすには、日本の大学または短期大学と同等の教育機関の学士号か、専門学校の卒業資格が必要です。ただし、海外の大学や短期大学は日本のそれらと同等として認められる一方、海外の専門学校はほとんどのケースで認められません。そのため、学士号や修士号を取得している候補者であればビザの要件を満たしていることが明らかなため、大抵の場合はビザ取得までスムーズに進みます。しかし、学位を取得していない候補者の場合、ビザ申請が許可されるかはケースバイケース。つまり、申請ごとに判断されることになります。大学以外の教育機関を卒業した人の場合、外国人人材採用のコンサルタントである中村拓海氏によると「私の経験則では、Associate Degreeなら許可される見込みが高く、「Diploma」や「Certificate」だと不許可の可能性が高い」といいます。

また、エンジニアリングに関連した学位を取得していることも必須です。「エンジニア」とは、技術、物理科学、自然科学、または工学の知識を必要とするポジションに使用されると定義されています。そのため、これらに関連する学位であればソフトウェアエンジニアとしてビザを取得することが可能とされています。当然、ソフトウェアエンジニアとして雇用する場合には、間違いなくそのポジションに関連しているコンピュータ・サイエンスやソフトウェアエンジニアリングを専攻しているのが理想です。しかし、ビザの申請は一件ずつ個別に内容を精査・判断されるため、特定の学位が確実に要件を満たしていると断言できないのが実情です。

エンジニアリングに関連しない大学学位を持っている外国人

社会人になってからエンジニアにキャリアチェンジした外国人の場合、募集中のポジションとは全く関連性のない学位を持っていることがあります。その場合、「ソフトウェアエンジニア」といった肩書きではなく、コーディングの知識も必要とする別のポジションで採用することで、そうした経歴の外国人がビザの要件を満たせることがあります。

例えば、募集中のポジションでは技術的な能力以上に英語のコミュニケーション能力を重視しているとします。そうすると、当該ポジションが「技術・人文知識・国際業務」ビザの「人文知識」の分野に該当する可能性が高まります。その結果、文系分野出身の候補者の学位が認められ、「技術・人文知識・国際業務」ビザを取得できる可能性が出てくるということです。

ただ、そうすると、本来はソフトウェアエンジニアを採用するはずだったのに、候補者の学歴に合わせてポジションの条件を調整することになります。「ソフトウェアエンジニア」としてビザを取得し雇用できる可能性がある他の候補者ではなく、例外的な対応をしてまでも採用する価値がある人材であるかどうかは、しっかりと見極める必要があるでしょう。

高度専門職ビザの対象者

高度専門職ビザは、特定の業界ではなく候補者自身の属性や現雇用主との関連性が高いビザです。日本の経済成長やイノベーションへの貢献が期待される人材(高度外国人材)を、出入国在留管理制度上の取扱いにおいて優遇し、積極的に受け入れようという方針のもと、ポイント制に基づいて人材を評価し、発行されます。

このビザの対象者となるのは、高度人材ポイント制において70点以上の外国人。この点数は学歴、職歴、年収、年齢、そして日本語能力(日本語能力試験でN1またはN2合格者)などの項目ごと算出されます。70点の基準をクリアしていればビザの取得要件が満たされるため、他の項目で十分な点数を獲得できていれば、大学の学位は必須ではありません。

一例として、次の条件をすべて満たしていれば、高度専門職ビザの対象者となります。

  • 大学の学位を持っている(10点)
  • 3年以上の実務経験がある(5点)
  • 29歳以下(15点)
  • 日本語能力試験のN2合格者(10点)
  • 年収800万円以上(30点)

点数の内訳を見るとおり、経験が浅いエンジニアの場合は取得が難しいかもしれません。ですが、10年以下の実務の経験がある候補者であれば取得できる可能性はありそうです。

すでに「技術・人文知識・国際業務」の在留資格保有者(英会話教室で働いている外国人など)

「技術・人文知識・国際業務」ビザへの申請が初めての候補者の場合、その外国人の経歴はビザ取得を支援する企業が採用しようとしているポジションに関連している必要があります。しかし、すでに「技術・人文知識・国際業務」ビザを保有して日本国内で働いている外国人となると話は別です。当該ビザがカバーする範囲の職業やポジションであれば、学歴や経歴に関係なく転職することができます。つまり、「技術・人文知識・国際業務」ビザをすでに持っている外国人の場合は、最初にどんな職業やポジションでビザを申請し取得したかに関係なく、ソフトウェアエンジニアとして採用することが可能だということです。

「技術・人文知識・国際業務」ビザは英会話スクールの教師にも付与されます。英会話スクールの教師としてビザを申請する際はどんな学位でも認められるため、初めて日本で働く外国人にとって、もっとも取得しやすいビザになっています。そうして「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で働いている外国人を、ソフトウェアエンジニアとして採用することができるというわけです。

少しグレーな方法のように聞こえるかもしれませんが、出入国在留管理局にも問い合わせて特に問題がない方法であることを確認しています。彼らによると、ビザ更新時には大学の学位を持っているかだけを確認し、専攻は確認しないとのことでした。そのため、すでにこのビザを取得している外国人を採用する場合には、学位の種類を気にする必要はないということです。

ソフトウェアエンジニアとして10年以上の実務経験がある外国人

ソフトウェアエンジニアとして10年以上の実務経験がある外国人の場合、大学の学位を持っていなくても「技術・人文知識・国際業務」ビザの取得が可能です。しかし残念ながら、このケースについては明確な指針や情報がありません。そのため、実際にビザの申請手続きをしてみるまで申請が許可されるかどうかがわかりません。

出入国在留管理局に問い合わせたところ、「10年以上」の対象となる職歴については柔軟に対応しているようでした。例えば、ソフトウェアエンジニアとしてフルタイムで勤務していた経験だけでなく、フリーランスやバイトとしての経験も考慮されるようです。ただ、インターンとしての経験は対象外とのことでした。候補者の実務経験を示すための書類には特定のフォーマットはありません。経歴を客観的に証明できるものであれば、採用通知や雇用契約書など何でも構わないそうなので、適切な書類を準備するようにしましょう。

また、ここでいう「10年以上」の経験には就学期間も対象となる可能性があります。例えば、大学でコンピュータ・サイエンスを学んでいたけれど退学した場合やIT関連の準学士号を取得しているなどの場合です。繰り返しになりますが、こういった経験を証明する書類には決まったフォーマットがないため、卒業証書など候補者が準備できるものを提出することができます。

このビザの主な懸念はわからないことが多い点です。マイクロソフトやGoogleなどの大企業で10年間働いていた外国人であれば、ビザ取得の際に大きな心配はないでしょう。しかし、様々な経験を足して「10年以上の実務経験」という条件を満たしている外国人の場合、ビザが許可される可能性があるとはいえ確実ではありません。

法務省が定める情報処理技術に関する試験に合格した外国人

法務省が定める情報処理技術に関する試験に合格した外国人であれば、「技術・人文知識・国際業務」ビザ申請に必須である大学学位や10年の実務経験が免除されます。現在、この試験はインド、シンガポール、韓国、中国、フィリピン、タイ、ベトナム。ミャンマー、マレーシア、モンゴル、バングラディッシュで実施されています。

これらの試験のうち、どの国の人でも受験できるのがフィリピンで実施されているPhilNITS基本情報技術者試験(Fundamental Information Technology Engineers Examination)です。このYoutubeで自身の経験をシェアしている外国人同様、フィリピン人以外の外国人が試験に合格し、日本でビザを取得して働いているという話を聞いています。

なお、この試験に合格した外国人は「技術・人文知識・国際業務」ビザの資格を満たすほか、高度専門職ビザにおいて5点分を獲得することができます。

ワーキングホリデービザの対象者

ワーキングホリデー制度においては、特定の学歴や職歴は必要ありません。ただ、日本と協定を結んでいる国の外国人であり、一定の年齢以下(30代以下など)である必要があります。このビザの目的は日本国内で休暇を過ごす間の生活を維持するための就労を許可すること。そのため、ビザ取得時に勤務先が決定している必要はありません。来日後は時間や雇用形態の制約もなく、どんな仕事にでも就くことができます。

そのため、ソフトウェアエンジニアとしてのキャリアをスタートしたばかりの外国人がワーキングホリデービザを取得して来日しているケースもあります。「仕事は見つからないかもしれないけれど、一度日本に住んでみたい」といった人でも取得しやすいからです。また、外国籍エンジニアを探している企業にとっては、ビザ取得の手続きを経る必要もなくすぐに雇用できるのが利点です。

ただ、ワーキングホリデービザには有効期限があります。雇用し続けたいエンジニアが見つかった場合には、期限が切れる前にビザの切り替えが必要になります。カナダ人である私も、最初はワーキングホリデービザで日本に来ました。日本に来てからソフトウェアエンジニアとしてフルタイムの仕事を見つけ、ビザが切れる前にその会社の支援のもと「技術・人文知識・国際業務」ビザに切り替えました。ビザの切り替え申請期間中も勤務を継続することが可能でした。

カナダ以外にも、オーストラリア、韓国、ニュージーランド、ドイツの人であれば、ワーキングホリデービザから「技術・人文知識・国際業務」ビザへの切り替え申請中も日本で勤務を続けることができるようです。しかし、それ以外の国の人の場合はその限りではなく、申請ごとに出入国在留管理局よる個別審査あります。ビザの切り替え申請期間中は帰国を命じられる可能性もあり、勤務を継続できることが約束されているわけではありません。

とはいえ、ワーキングホリデービザの有効期限切れにより帰国を命じられた場合でも、その外国人の雇用を継続したければ「技術・人文知識・国際業務」ビザへの切り替えの申請をすることは可能です。申請が許可されるまでの間はリモート勤務で雇用を継続するなど、柔軟な対応が必要になるかもしれないことを認識しておきましょう。

世界でトップ100位以内の大学卒業者

2023年4月、日本では未来創造人材制度(J-Find)が導入されました。優秀な海外大学を卒業した外国人が日本で就職活動や起業準備活動をする際に「特定活動」というビザが認められる制度です。このビザを取得した外国人は日本で就職活動をし、就職先が見つかった場合はすぐに勤務を開始することができます。対象となるのは下記すべての条件を満たす外国人です。

  • 2つ以上の世界大学ランキングで100位以内にランクインしている大学を卒業している
  • 卒業から5年以内
  • 来日直後の生計維持費としてビザ申請時に預貯金額が20万円以上ある

ワーキングホリデー制度の年齢制限を超えた外国人や協定国出身でない外国人の場合、この「特定活動」ビザで来日している可能性があります。このビザの有効期限は2年のため、雇用を継続する場合にはワーキングホリデービザ同様、期限が切れる前に「技術・人文知識・国際業務」ビザへの切り替えが必要です。

著者について

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マクマホン・ポール

代表取締役

カナダ出身のソフトウェア開発者で2006年から日本在住。2011年からTokyoDevを通じて、外国人エンジニアの日本でのキャリアスタートとキャリアアップをサポートしています。

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