はじめに
エンジニアの獲得競争が激化する中、エンジニアの採用に成功し続けている会社があります。 株式会社Givery(ギブリー)です。
現在、Giveryの開発チームは約120名程度。その半数以上が外国籍メンバーによって構成されています。Giveryの取り組みは、組織のグローバル化に投資することがいかに効果的かつ生産性が高いかが良くわかる事例です。そしてそれが、会社の成長や日本人エンジニアの採用にも良い影響を与えることにもつながっています。
この記事では、Giveryがいかにして外国籍採用を成功させているのか、そして多国籍チームによって会社がどう成長してきたのかを紹介します。
多国籍チームが牽引するGivery
Giveryは2009年に創業された会社です。創業以来、エンジニアの採用・育成・評価に必要なコーディングテストツールや学習管理システム(LMS)、求人サービスなどのHRプラットフォームを提供してきました。最近では、AIを活用した業務改革やマーケティングを支援する多彩なプロダクトを展開しています。現在、約120名のエンジニアが活躍しており、エンジニアが全社員の約半数を占めています。
多国籍な開発チーム
Giveryの開発チームは日本人と外国籍がそれぞれ半数の割合で構成されており、20ヵ国から集まったメンバーで構成される多国籍なチームです。外国籍のメンバーの中には海外のGoogleやAmazonでの勤務経験を持つ優秀なエンジニアたちもいます。
専門執行役員に外国籍メンバーを登用
生成AIブームや今後のグローバル展開を見据え、2024年にGiveryは専門執行役員制度を設け、経営メンバーに外国籍メンバーを3名登用しました。もともとエンジニアリングマネージャー(EM)やVP of Engineering(VPoE)として活躍していた外国籍メンバーを経営の中心に引き入れたのです。この背景には、日本人だけではなく外国籍も一緒に議論をしながら、経営面での意思決定にも関わってほしいというGiveryの想いがあります。これから海外の企業に向けてさらにビジネスを加速するというGiveryの意思を感じられる決断ではないでしょうか。
スタートアップチームのように働く
GiveryではいくつかのSaaSのプロダクトを展開していますが、各チームが約10〜15名規模のスタートアップのように機能しています。もちろん日本人メンバーもいますが、メンバーを率いるEngineering Managerには引き続き外国籍メンバーも多く配置されています。
なぜGiveryは外国籍を採用するのか
Giveryが外国籍エンジニアを採用し始めたのは、創業から5年経った2014年のことです。当時はまだ会社の知名度が低く、採用活動が思うように進んでいませんでした。グローバル展開も視野に入れていたとはいえ、Giveryが外国籍採用に踏み切った背景は何だったのでしょうか?
初めての外国籍エンジニア採用のきっかけ
当初、GiveryはBtoC向けのプログラミング学習サービスを開発していました。マーケットは日本国内に限られていましたが、中長期的には海外にもプロダクト展開をしたいという希望がありました。そのために、まずは組織をグローバルな体制に整えるよう投資するのが良いのではないかという話が持ち上がったそうです。そんな時たまたま、求人サービス経由にて、タイミング良く日本語があまりできない外国籍のフロントエンドエンジニアから応募がありました。グローバル展開を目指すならば、国籍を問わず人材を雇用するのは自然なことだと楽観的に考え、このエンジニアの採用を押し通したそうです。当時は経営メンバーでも英語が話せる方は限られていたにも関わらず、チャレンジしてみようという意識で進めています。
その結果、そのエンジニアを筆頭にチームの多国籍化が進みます。2年後には外国籍メンバーを中心とした約10名のチームに成長しました。公用語も徐々に英語に変わり、ダイバーシティに富んだ職場環境が形成されていきました。当時日本人エンジニアの採用に苦戦をしていた状況が、外国籍エンジニアに雇用対象を広げ、国際色豊かなエンジニアチームを構築するきっかけになったといえるでしょう。
日本人採用も好転
知名度の低さから日本人エンジニアの採用に苦戦していたGiveryですが、多国籍な開発チームができると徐々に状況が変わっていきます。会社やチームのダイバシティをアピールできるようになり、次第に日本人エンジニアの採用もうまくいくようになりました。外国籍エンジニアを採用したことが転機となり、日本人エンジニアも採用しやすくなったのです。
多国籍なメンバーをつなぐGivery流コミュニケーション術
Giveryでは外国籍エンジニアと日本人エンジニアが協力し合えるように、社内のコミュニケーションに工夫をしています。その具体的な取り組みを紹介します。
言語の壁を解消できるようなキーパーソンの存在
Giveryでは開発チームの公用語は英語です。しかし、日本企業向けに日本語でプロダクトを提供しているため、開発チーム以外の部署では基本的に日本語を使用しています。そのため、開発チームと他部署の連携をどのようにカバーするかが、組織として非常に重要になってきます。
この連携を担う重要なポジションには、英語と日本語の両方を話せるメンバーを配置しているそうです。例えば、セールスチームから吸い上げた一次情報をまとめたり、ユーザーインタビューを実施するプロダクトマーケティングマネージャー(PMM)は、英語も話せる日本人が務めています。プロダクトオーナー(PO)を外国籍メンバーが担う開発チームもあるため、このPMMがキーパーソンとなりPOと綿密に連携できるようにしているのです。
また、前述の専門執行役員の外国籍メンバー3名は日本語をある程度話せる上、日本人執行役員も半数以上が英語を勉強して話せるようにしているそうです。
情報共有を徹底
各チームではウィンセッションやシンクアップミーティングを月に1〜2回実施し、情報共有を徹底しています。
ウィンセッション(Win Session)とは?
ウィンセッションは、ビジネスやプロジェクトの成功事例を振り返り、成功要因を分析・共有する会議です。主な目的は、成功事例の共有、成功要因の分析、ベストプラクティスの確立、そして継続的な改善です。具体的には、成功した取引やプロジェクトの概要を説明し、成功要因をチームでディスカッションしたり、他のプロジェクトにも応用できる学びやベストプラクティスを共有し、フィードバックを基に改善点を提案します。このプロセスを通じて、チーム全体の知識とスキルを向上させ、次回のプロジェクトや取引での成功率を高めることが期待される会議です。
シンクアップミーティング(Sync-up meeting)とは?
シンクアップミーティングは、チームが定期的に集まり、プロジェクトやタスクの進捗を共有し、調整を行うための会議です。主な目的は、進捗の共有、課題の特定と解決、調整と計画、コミュニケーションの強化です。各メンバーが進行状況や成果を報告し、発生している問題や障害を共有し、解決策を検討します。また、今後のタスクやプロジェクトのステップを計画し、役割分担を明確にします。シンクアップミーティングは、プロジェクトの進行をスムーズにし、チームの連携を強化するための重要なコミュニケーション手段です。
その際、日本語で話す場合は英語で通訳をするなど、言語の問題が生じない工夫をしています。チャットベースで英語の説明を加えたり、翻訳した資料を提供することもあるそうです。
こういった工夫により、営業チームから提供されるお客様の一次情報、例えば「なぜこのプロダクトを選んだのか」「どの機能に魅力を感じたのか」「これから期待する機能は何か」といった開発チームにとって重要な情報を、リアルタイムで共有することができます。また、「優先的にリリースしようとしている機能」や「いつどのような機能がリリースできるのか」といった開発チームからの情報も営業チームに共有され、営業チームはその情報をタイムリーにお客様に届けることができるそうです。
このような連携を強化するミーティングやカルチャーの構築に、Giveryは積極的に投資しています。情報共有をスムーズにすることで、組織全体が一丸となって効率的にプロジェクトを進めることができているのです。
グローバルなエンジニア採用成功の秘密
多くの企業が即戦力となる日本人エンジニアの中途採用に苦戦する中、Giveryは毎年の採用計画通りに達成をしており、他社と比較するとエンジニア採用は成功しているといえます。一体なぜなのでしょうか?その答えは外国籍採用にありますが、ここではその成功の秘密を紹介します。
楽観的にトライしてみる
グローバルマーケットをターゲットにしてプロダクトを展開する段階であれば、外国籍メンバーを採用するのはある種自然なことかもしれません。ですが、Giveryはその準備段階から積極的に外国籍採用に取り組みました。楽観的に「やってみよう」と考え実行することが、現在の採用成功につながっている大きな理由の一つです。
早い段階での挑戦と柔軟な対応
2014年当時のGiveryは社内の制度設計があまり整っていませんでした。ですが、そのような早期の段階で外国籍エンジニアの受け入れを開始しました。早めの挑戦から約10年にわたる試行錯誤を経て、現在の成功につながっているともいえます。
というのも、会社が初期フェーズだったからこそ、様々な新しい考え方や要望に柔軟に対応できたからです。例えば「お昼の2時間、ジムに行っていいですか?」や「12月は母国に帰りたいので1ヶ月休みたいです」といった要望が外国籍エンジニアからあったそうです。日本人の考え方とは異なるこういった要望や提案に対しても柔軟に検討し導入できたのは、まだ社内制度が整っていなかったからこそできたことだといいます。
おわりに
この記事は、Giveryの執行役員である山根さんに伺ったお話をまとめたものです。中でも印象的だった山根さんのお話を最後に紹介します。
”海外の人を採用することは「できたらいいな(nice to have)」というものであり、後回しにしがちな施策かもしれません。しかし、直近の市場感を考えると日本人エンジニアの採用は非常に難しくなっています。
Giveryにはエンジニア以外にも色々な職種がありますが、エンジニア採用は比較的、採用計画通りに採用を進められています。毎年達成できている会社はほとんどないのではないかと思っています。
楽観的な視点で早くトライしたからこそ、10年の試行錯誤や失敗と成功の体験があり、今の組織があると感じています。まだ発展途上ではありますが、10年くらいかけて自分たちの組織作りの型ができたと考えています。”
Giveryの事例から学べるのは、できるだけ早期に始めることと、思い切って取り組んでみることの重要性ではないでしょうか。「外国籍採用は不安だ」「英語ができるメンバーがいないから難しいのではないか」などと考えすぎず、楽観的に始めてみるのもいいのかもしれません。