少子高齢化が進む日本では、特に建設業界で深刻な人手不足が問題となっています。熟練工の技術が継承されず、建設業をはじめとした生産現場で支障が出る危機に直面している中、DeepXは先端ロボティクス技術を駆使して、世界の建設現場で起こる様々な課題の解決に挑戦しています。建設機械の自動化を中心としたソフトウェア開発により、現場の効率化と人手不足の解消を目指しています。
その目標を実現するため、DeepXは多様なバックグラウンドを持つ優秀なメンバーを国内外から集めています。従業員43名のうち6割以上を占める27名が外国籍であり(2024年10月時点)、現在では開発チームのほとんどが英語で業務を行っています。
今回は、コーポレート部門に所属する牧野さんにインタビューを行いました。牧野さんは、大学や公的機関、さらには民間企業での豊富な国際業務経験を持ち、アメリカやスウェーデンでの海外勤務も経験されています。2023年春からはDeepXの人事業務を担当し、多様な人材が活躍できる環境づくりを支えています。
この記事では、DeepXの外国籍エンジニアの採用背景や手厚いサポート体制、さらには社内のコミュニケーションや研修制度について紹介します。
採用効率向上のため外国籍エンジニアにも注目
DeepXが外国籍エンジニアを積極的に採用し始めた背景には、高い技術力を有する優秀なエンジニアが必要だったという切実かつ大きな理由がありました。創業当初は国内で日本人のエンジニアを探していましたが、ロボティクスや制御等を学び、それらの高い技術を用いてスタートアップで活躍するというキャリアパスが日本ではあまり一般的でないこともあり、DeepXが求める人材をなかなか見つけることができなかったのです。
高い技術力が求められる理由
DeepXが取り組んでいる建機自動化は、過去に前例のない、これまで誰も成し遂げたことのない分野です。このような正解が明確でない未踏の分野に挑戦するためには、開発背景を理解し、その上で最適解を導き出すことができる高いレベルのエンジニアが必要不可欠です。
また、使用される技術はロボティクス、制御、認識、シミュレーションと多岐にわたります。これらを統合し、建機の自動化を実現するためには非常に複雑で高度な技術が求められます。そのため、自身の専門分野にとどまらず、周辺分野についても一定の理解を深め、他の分野のエンジニアと協力しながら円滑に仕事を進めることが重要となります。このような視点からも、高いレベルのエンジニアが必要とされているのです。
DeepXの創業は2016年ですが、初めて外国籍のエンジニアを採用したのは2018年のことだったそうです。それまでは国内で優れた技術を持つ人材を探していましたが、事業規模拡大に向け早く人数を確保するため、もっと広い選択肢の中から人材を探す必要があると考えました。結果として、高いスキルを持ったエンジニアを世界中から採用する方向へとシフトし、その後順調に採用活動を進めることができたそうです。
採用の成功を支えたのはLinkedInと人材紹介会社
当初は、社内ネットワークやバイリンガルエージェントを通じて、日本在住の外国籍人材を採用することが優秀なメンバーを増やしていくための主な手段でした。
2018年以降、外国籍エンジニアの採用を本格化させるため、英語対応が可能な採用担当者を配置し採用活動の幅を広げました。この時期から、DeepXはLinkedInを活用し、バイリンガルエージェントとの連携も強化しました。これにより、国内外問わず広い選択肢の中から優秀なエンジニアを確保できるようになり、現在でもこれらのチャネルは採用活動の中核を担っているそうです。2018年時点では外国籍エンジニアは1名でしたが、組織の成長とともに人数が増え、現在は9割以上のエンジニアが海外出身です。
ロシア出身エンジニアを取締役に抜擢。国籍にかかわらず活躍できる企業文化で更なる成長を目指す
2023年、DeepXではロシア出身のエンジニアであるNeverov Dmitry氏が取締役に就任しました。彼がこの重要な役職に就くまでの道のりは、どのようなものだったのでしょうか?
Neverov氏のこれまでのキャリア
Neverov氏は、ロシアのサンクトペテルブルク大学で理論物理学の修士号を取得。その後、2016年に来日し、名古屋大学で実験素粒子物理学の研究を行いました。2020年4月にDeepXのサマーインターンシップを経て、物理ソフトウェアエンジニアとして正式に入社。社内での活躍が認められ、2022年にはエンジニアリング部門の責任者に昇進します。そして2023年6月には取締役に就任し、開発部門全体を統括しています。
なぜNeverov氏は取締役に選ばれたのか?
2020年にインターンからスタートしたNeverov氏は、外国籍メンバーの中で最も在籍期間が長い社員となりました。彼の技術力と社内でのリーダー経験の地道な積み重ねにより、取締役への就任は自然な流れであり、反対する声はなかったと牧野さんはいいます。
DeepXでは、経営陣も英語での業務や外国籍社員の活用に前向きで、文化的な壁を感じさせない組織体制が整っています。DeepXには、日本企業によく見られる「日本人が上を固める」という固定観念がありません。むしろ、社員同士が意見を自由に出し合い、共に成長し合う風土が根付いています。そのため、国籍に関わらず能力がある人材がリーダーシップを発揮しやすい環境が整っていたといえます。
外国籍エンジニアが取締役に就任した影響
Neverov氏が取締役に就任したことでどのような影響があったのでしょうか?まず会社全体では、エンジニアの意見が経営層での意思決定に反映されやすくなり、その結果として外国籍エンジニアと経営陣の間のギャップが縮まりました。経営面では、エンジニアリングのバックグラウンドを持つNeverov氏とCEOの冨山翔司氏が、財務計画の統計モデリングや従業員評価の自動化等、会社の経営に必要なツールの内製に取組み、柔軟で効率的な管理方法を実現しています。
開発面では、プロジェクト管理において、英語が堪能な日本人プロジェクトマネージャーに加え、開発部門でも一部対応する組織デザインへの変更に尽力した結果、問題の特定と解決策を見出す柔軟性とスピードが向上しました。さらに、開発部とソリューション部が対等な立場で議論し、調和の取れた現実的な解決策を導き出せる効果も出ているといいます。
コミュニケーションの壁をどう乗り越えてきたか?
国際色豊かなDeepXにおいて、その多様性が時にチーム内のコミュニケーションで課題を生むこともあります。しかし、それを乗り越えるために工夫していることがあるそうです。ここでは、DeepXが直面しているコミュニケーションの課題とその解決策をご紹介します。
社内イベントで日本人社員と外国籍社員の仲を深める
もともとDeepXは日本人のみで構成された組織であり、すべての業務は日本語で行われていました。しかし徐々に外国籍エンジニアが増え、現在では開発チームではほぼ100%が英語でのコミュニケーションです。そのため、自然と日本人同士、外国籍同士がそれぞれに集まる傾向もあったと牧野さんはいいます。
そこでDeepXでは、積極的に社内イベントを開催し、異なる文化や背景を持つ社員同士の絆を深めているそうです。たとえば、バーベキューや家族を交えたパーティーを定期的に企画し、日本人社員と外国籍社員が一緒に楽しむ機会を設けています。特にコロナ禍では、採用した外国籍エンジニアがしばらく来日できないという問題がありました。離れて業務していると育きれなかった絆を補うために、来日してからは社内で2週に一度の集まりを設けて、社内のメンバーとコミュニケーションを取れる機会を作っていたそうです。
すべての社員に公平に情報共有することの大切さ
DeepXには20カ国以上から集まったエンジニアが在籍しており、英語が共通言語です。開発チーム内での言語の壁は少ないとはいえ、文化や思考パターンの違いから、すべてがスムーズに進むわけではありません。
この課題に対して、DeepXは「透明性」を重視し、すべての社員が公平に情報を得られるようなシステムを整えています。以前は開発に必要な様々なアプリケーションの情報が散らばっており、わかりづらいという問題がありました。GoogleドライブやGitHub、タスク管理システムなどに情報が分散しており、アクセスが難しかったそうです。そこでそれらを統合するためのシステムを整備し、必要な情報にすぐにアクセスできる環境を作られたといいます。
開発に関するドキュメントはすべて英語で作成され、可能な範囲で広く共有されています。また、日本語を使用するソリューション部でも、議事録は英語で作成したり、 全社会議の説明を日本語と英語の両方で行うなど、すべての社員が同じ情報を共有できるよう工夫されています。
また開発に必要な情報だけでなく、オンボーディング資料や業務に必要なマニュアルや情報、日本での生活に役立つ情報がWikiとしてまとめられ、誰でも簡単に閲覧できるようになっています。外国籍の社員が多く在籍していることから、社員同士で情報を共有し合う環境が自然と形成され、相互にサポートし合う文化が根付いているそうです。
クライアントとの円滑なコミュニケーションの鍵を握るプロジェクトマネジャー
一方、DeepXのクライアントのほとんどは日本の企業であり日本人です。特に建設業界では、IT企業とは違う文化があり、外国籍の人と一緒に働くことに慣れていないケースもあります。また日本語のみでコミュニケーションされることが多く、独特な業界用語も存在します。このため、クライアントの要望や詳細を外国籍エンジニアに正確に伝える仕組みが必要だったといいます。
この課題に対応するため、DeepXでは高い英語力を持つ日本人のプロジェクトマネージャーを配置しています。以前であれば英語力は不要とされたポジションですが、エンジニアチームの公用語が英語となった今は一定の英語力が必要なポジションと捉えているそうです。彼らはクライアントからの要望を正確に理解し、外国籍エンジニアに伝える重要な役割を担っています。
また、DeepXは「現場」を重視していることも特徴の一つです。そのためエンジニアも現場に出向くことがあり、その際には日本語が話せるかどうかでクライアントの印象も大きく変わります。この理由から、日本語を学ぶ意欲の高いエンジニアが多く、日本語学習を支援する仕組みも整えているそうです。
拡充され続けるDeepXの研修制度
日本語学習の支援も含め、DeepXでは研修制度が充実しています。これまでは語学研修がメインでしたが、今後予定している研修制度の拡充についてもお話を伺いました。
オンライン日本語研修で言語の壁を乗り越える
DeepXでは、外国籍の社員向けには日本語、日本人社員向けには英語のオンライン研修をサポートしています。業務で完璧なコミュニケーションが取れなかったとしても、日々の仕事が少しでも円滑に進むようにとの意図で、この研修制度が導入されました。
日本に来たばかりの外国籍社員や日本語を学びたいという意欲を持つ社員からは、非常に好評だそうです。この語学研修プログラムは、外部の専門サービスとの法人契約により提供されており、多くの社員が受講しています。
個々のニーズに合わせた研修へ
最近になり、DeepXの研修制度は語学のサポートに留まらず、社員がそれぞれの課題に応じてスキルアップできるように幅広い選択肢を提供する形へと変化していると牧野さんはいいます。
今後は、各社員がパフォーマンス向上にどういった学習が必要かマネージャーと話し合い、課題に合わせて研修方法を設計できるシステムに改善されたそうです。社員一人ひとりが必要とするスキルは異なるため、語学以外にも技術的なスキルやマネジメントスキル、学会参加など、さまざまな分野を学べる機会が提供される予定です。個人のニーズに合った形で、社員それぞれの成長を後押しすることを目指されています。
DeepXが提供する来日時の手厚い支援
DeepXでは、海外在住のエンジニアが来日する際にさまざまなサポートを提供しています。ビザのサポートだけでなく、日本での生活のスタートをスムーズにするための手厚い支援が特徴です。どのようなサポートが行われているのでしょうか?
来日時の具体的なサポート内容
海外在住のエンジニアが来日し働くためには、ビザの取得や更新のサポートが必要です。これらは外国人人材の受け入れを専門とした行政書士法人がサポートおよび手続きの代行を実施し、費用も会社が負担することで、国外から来るエンジニアが安心して手続きを進められるようにしています。
さらに来日時には、国際線の交通費の負担だけでなく、海外から来るエンジニアがスムーズにオンボーディングするための様々な仕組みを整えています。新しい会社で働くだけでも大変ですが、国が変わり、言葉もわからない中で生活を立ち上げるのは想像以上に困難な場合もあります。そこで、来日直後から落ち着いて生活開始できるよう、家具付きのマンスリーマンションを1ヶ月間分会社が用意し、空港からの移動のためのハイヤーも手配しています。また、言語や商習慣の違いから苦労が多い外国籍の方の家探しを得意とする不動産会社も紹介しています。
また、住居探しや携帯電話の契約、銀行口座の開設といった、来日後に必要な手続きのために特別有給休暇を4日間取得できるなど、スムーズに日本での生活が開始できるような配慮が徹底されています。
柔軟な祝日振替休暇制度
DeepXの外国籍エンジニアから特に好評を得ているのが、祝日振替休暇制度です。通常の日本の祝日を勤務日とし、同数の有休を付与することで、好きな時期にまとまった休暇を取得できるという制度です。この制度により、エンジニアは一時帰国の際に有給休暇と祝日振替休暇を組み合わせて長期休暇を取得することが可能です。
祝日を勤務日にしたこの制度は、母国への帰国時などに長期休暇を取りたいという要望が強かったことから導入され、今では日本人も含め多くの従業員が本制度を活用していると牧野さんはいいます。
変化を受け入れ日本の慣習にとらわれないDeepX
DeepXでは、高い技術力を持つエンジニアを求めた結果、外国籍エンジニアの採用が必然的な流れとなりました。その過程で、会社としても柔軟に変化を受け入れ、対応していったことが成功の鍵だったといいます。
日本の会社だからといって、外国籍エンジニアに日本の慣習に合わせてもらうのではなく、彼らが公平に働きやすい環境を整えるべくDeepXは取り組んできました。社員の声に耳を傾け、フィードバックを積極的に取り入れながら、変化を受け入れてきたそうです。そうすることで長期的に見ても、より優秀なエンジニアを惹きつけられる会社になることができるのではないかと考えられているといいます。
「DeepXは海外の会社の良さも取り入れた働きやすい環境だと感じます」と、国際的な部署で多くの経験を持つ牧野さんは語ります。経営陣をはじめ柔軟でフラットな人間関係の中で外国籍メンバーが意見をしっかりと言える環境を整えていることが、そう感じている大きな理由だそうです。DeepXが提供する手厚い支援体制や研修制度に、社員を大切にする企業の姿勢を感じました。このような取り組みは、今後外国籍エンジニアの採用を考える企業にとっても参考になるのではないでしょうか。