結論から言うと、できると思っています。少なくとも、私自身は流暢な英語話者ではない状態でインターナショナルな開発チームに入り、今は多国籍なエンジニアチームのマネジメントをしています。
もちろん、「できる」と「簡単にできる」は違います。1on1、フィードバック、チーム内の摩擦の調整、意思決定の説明など、Engineering Managerの仕事では英語力の不足が直接的に重要になる場面があります。一方で、これまで積んできたエンジニアとしての経験やマネジメント経験が、その不足を補ってくれる場面もあります。この記事では、仕事で英語を使った経験がなかった日本人エンジニアの一人として、インターナショナルなチームで働く中で感じた難しさと、言語を越えて活きた経験について書いてみようと思います。言語の壁で躊躇している人の背中を少しでも押せたらと思っています。
入社からマネージャーになるまで
まず、MODEに入社する背景から書きます。私は大学時代、国際関係学や社会学を専攻し、1年間スリランカのNGOでインターンした経験があります。当時の私の英語は、決して流暢なものではありませんでした。加えて、私が仕事していた環境では周辺住民の方々やスタッフの方々の中には英語ができない方も多く、さらにおぼつかない現地の公用語(シンハラ語)でなんとかコミュニケーションをとっていました。
言語の壁がある環境の中で何とか生活し、働き、周囲の人と関係を作っていく経験をしました。その経験が、「インターナショナルな環境で働くこと」への興味や、「言語が完璧でなくてもなんとかなる」という考え方の原点になっていたように思います。大学卒業後は、ソフトウェアエンジニアとして約10年、Webサービスの開発に関わってきました。その中でTech LeadやEngineering Managerの役割も経験しました。ただし、そのすべては日本語環境での経験です。英語で仕事をする経験は、MODEに入社するまでありませんでした。
MODEを知ったきっかけは、元同僚からの紹介でした。MODEの東京オフィスで一人目のソフトウェアエンジニアとして働いていた元同僚がいて、その人から声をかけてもらいました。英語力を根拠に応募したわけではありません。むしろ、入社時点では書く英語はめちゃくちゃで、英語での議論もかなり難しかったです。
そんな背景で、私がMODEに入社したのは2019年です。
入社当初は英語力の拙さを痛感する場面は数多くありました。ドキュメントを読んで理解したり、説明を英語で受ける場面ではなんとか理解できたものの、複数の人が英語で議論している内容にはなかなか理解がついていけませんでしたし、英語でデザインドキュメントを書くのはかなり苦戦しました。今でも覚えているのは、CEOがGoogle Docs上で英語表現の誤りを色々直してくれた結果、ドキュメントが修正提案で真っ赤になっていたことです。当時は、「a」と「the」をどう使い分けるのか一生わかるわけがないと思っていました(そのうち、自然に理解できるようになったのですが)。
それでも強く感じたのは、エンジニアとしての技術力や経験はかなり助けになるということです。例えば入社して間もない頃、ある厄介な本番不具合の対応を行うことになりました。英語での説明や議論には苦労していましたが、問題を切り分け、原因を特定し、解決まで持っていくことはできました。今思い返すと、同僚から信頼を得るきっかけの一つになったと思います。
インターナショナルな環境に入ると、「英語ができないと何もできない」と考えてしまいがちです。
ただ、実際には、エンジニアとしての力が信頼の入口になる場面は多くあります。コードを読む、問題を切り分ける、設計を考える、障害を解決する。そうした力は、言語が変わっても価値を失わないものだと思います。
当時のMODEは10人未満の小さなスタートアップでした。Tech LeadやEngineering Managerといった役職そのものがまだ明確には存在していませんでした。必要がなかった、と言ったほうが近いかもしれません。肩書きに関係なく、全員が手を動かしてプロダクトを作る段階でした。その後、会社が成長するにつれて、チームの中に役割が必要になっていきました。2021年頃にTech Leadのような役割を担うようになり、2023年頃からEngineering Managerとして働くようになりました。最初から「英語ができるからマネージャーになった」のではなく、会社の成長とともに必要な役割が生まれ、それを引き受けていく中で少しずつ広がっていった、という感覚です。もちろん、英語ができないままでよいという意味ではありませんが、英語が完璧ではなくても、Tech LeadやEngineering Managerを任される機会はあります。仕事を通じて英語力を伸ばし続けることは必要です。ただ、最初から完璧である必要はありません。
マネジメントの仕事では英語の使い方が問題になるのも事実
ただ、Engineering Managerになってかは、ロールの影響範囲が広がるほど、チームと接する際にも、上長と接する際にも、より英語の使い方が問題場面が多くなりました。
ソフトウェアエンジニアとして働く場合、英語が苦手でも、コードや設計ドキュメント、Pull Request、Issueなどを通じてかなり補うことができます。最近はAIツールも強力です。Slackやドキュメント、PRコメントのような非同期コミュニケーションでは、英語のハードルはかなり下がりました。私自身、英語で文章を書くとき、表現を整えるとき、相手に失礼にならない言い方を確認するときにAIを使うことがあります。でも、Engineering Managerの仕事には、AIや非同期コミュニケーションだけでは代替しづらい場面があります。
例えば1on1です。1on1では、単に状況を確認するだけではなく、感情を伴う込み入った話をすることがあります。本人が不安や不満を抱えていることもありますし、こちらから厳しいフィードバックを伝えなければならないこともあります。そういう場面では、言葉の選び方がとても重要になります。日本語であれば、少し曖昧に表現したり、相手の反応を見ながら微妙に言い回しを調整したりできます。英語では、慎重に言おうとしすぎて、言葉が過剰に多くなってしまったり、何を伝えたいのかが曖昧になってしまいがちでした。
現在は、なるべくストレートに表現できるようにしようと心がけており、多少はマシになっていると思いますが。
多人数での議論も難しい場面です。特に、日本語話者と英語話者が混在するミーティングでは、単に自分が英語で話せばよいわけではありません。英語が得意なメンバーの発言が強く聞こえたり、英語が得意ではないメンバーの意図が十分に伝わらなかったりすることもあります。
この時、Engineering Managerとしては、メンバー間の理解を補助する必要があります。「今の意図はこういうことだと思う」「ここは一度前提をそろえよう」「結論としては何に合意したいのかを確認しよう」といった形で、英語の議論を理解し、適切に状況を整理し、交通整理する必要があります。
これまでは自分が担当する組織のマネジメントの方向性について触れてきましたが、逆に、上長(私の場合はCTOに当たります)に対して接する時にも英語での議論の内容が一段階上がる印象もあります。Individual Contributerである時に比べて、より技術戦略的な議論や、組織や人事に関する話題が多くなります。中心となる技術的な個別の話を行うよりもより多様な語意が必要になったと感じます(いまだにパッと良いワードが浮かばないことがありますが)。
このようにマネージメントの役割を担う上では、リアルタイムで感情や摩擦を扱う場面では、現時点では、やはり自分の英語で向き合う必要があります。だからこそ、英語力の不足はデバフとして残ります。
マネジメントの本質は、言語が変わってもあまり変わらない
一方で、ここまで書いたような難しさがあっても、マネジメントとしての仕事の本質は、言語環境が変わってもそれほど大きくは変わりません。
メンバーが何に困っているのかを理解する。期待値をそろえる。責任範囲を明確にする。本人の成長に向き合う。チームとして何を優先するのかを説明する。こうした仕事は、日本語チームでも、英語チームでも、基本的には同じです。なので、前職の日本語環境で経験したTech LeadやEngineering Managerとしての仕事は、MODEで多国籍チームと働く中でも活きていると感じています。
先ほども書いた通り、英語話者のメンバーの方が、明確に意思や方針を確認する傾向があります。このような場合も、各論の意思決定に対して、なぜそうするべきか、どのような背景でそうすべきかをきちんと説明することが必要になります。英語で説明する難しさはありましたが、何を説明すべきか、どう合意形成するべきかについては、過去にTech LeadやEngineering Managerとして意思決定に関わり、自分の言葉でチームに説明してきた経験をそのまま使えた感覚があります。
ここには英語力も必要ですが、それ以前にファシリテーション、リーダーシップ、人と向き合う姿勢などはマネジメントの仕事としてはより本質的だと思います。だから私は、「非ネイティブでもEngineering Managerはできる」と思っています。英語が完璧ではなくても、それまでのマネジメント経験やエンジニアとしての経験は失われません。むしろ、その経験があるからこそ、英語環境でも何とか戦える場面が多くあります。
結論
非ネイティブな日本人でも、インターナショナルなチームでTech LeadやEngineering Managerとして仕事をすることはできると思います。
エンジニアとしての技術力や経験は、英語力の不足を補ってくれます。これまでのマネジメント経験や、人と向き合ってきた経験も、言語環境が変わっても活きます。だから、英語が完璧ではないという理由だけで、インターナショナルな環境を諦める必要はないと思っています。
ただし、英語のデバフは残ります。特に周囲への影響力が高い役割になるほど、英語はより直接的に効いてきます。1on1、フィードバック、議論のファシリテーション、意思決定の説明。そうした場面で、自分の英語力の限界を感じることはあります。だからこそ、英語は伸ばし続ける必要があります。
インターナショナルな環境に興味はあるけれど、自分の英語力では無理だと思っている日本人エンジニアは少なくないかもしれません。特に、「自分より英語ができるエンジニアがたくさんいるはずだから、自分にはチャンスがない」と考えてしまう人もいると思います。
私自身現職で採用の仕事に関わっていますが、会社側は単に流暢な英語を話す人だけを探しているわけではありません。エンジニアとしての技術力、経験、チームで働く力、そして英語が必要な環境で伸びていく意思を総合的に見ています。
もちろん、最低限の英語力は必要です。技術文書を読む、簡単な文章を書く、ゆっくり話してもらえれば理解する、わからない時に確認する。そのくらいの基礎は必要です。ただ、応募する時点や挑戦する時点で、すでに完璧な英語力を持っている必要はありません。間違えながら、確認しながら、少しずつできることを増やしていけばいいと思います。
言語の壁で躊躇している人にとって、この記事が一歩踏み出すきっかけになれば嬉しいです。
