多国籍チームと日本企業が直面する課題

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木本恵子

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Rebecca Callahan

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日本はより多くの外国籍エンジニアを必要としています。でもそれは、日本の会社や社会に外国籍エンジニアがなじむのは簡単だという意味ではありません。でも実際、多国籍チームを擁する日本企業がもっともよく直面する課題はいったい何なのでしょうか?

それを探るべく、TokyoDevでは外国籍社員を雇用する複数の日本企業にインタビューを実施。グローバルに採用を広げるメリットに加えて、これまでに経験した困難や解決策について聞きました。

インタビューを実施した企業は下記の通りです。

  • MeetsMore:プロのサービスを依頼したい個人や企業と、提供する業者をマッチングするプラットフォームを提供
  • Shippio:貿易業務のデジタル化を実現する日本初のデジタル輸送会社
  • Autify:AIによるソフトウェア自動化プラットフォーム
  • DeepX:建設重機の自動運転システム
  • Givery:世界標準のエンジニアをスカウト・採用・トレーニングするサービス
  • Cybozu:日本を牽引するグループウェアプロバイダ
  • Beatrust:企業の人的資本を最大化するソリューションを提供

これらの企業へのインタビューの結果、企業が経験する課題は二つのカテゴリーに分類されました。一つは言語の壁。そしてもう一つは採用した社員が日本に来る時のサポートです。

言語の壁

多国籍チームを有する日本企業が最もよく直面する課題が言語の壁です。インタビューをしたすべての企業では、それぞれが独自の解決策を見つけていました。

非言語コミュニケーション

MeetsMoreでは、言葉によるコミュニケーションは誤解を生みやすく、特に複数の言語が関わる環境ではそのリスクが高まると認識しています。そこで、同社ではテキストベースのコミュニケーションを重視する独自のプロトコルを導入しています。現在、MeetsMoreのエンジニアチームでは、日本語ネイティブと英語話者の比率がおよそ3:2ですが、英語話者の数は増加傾向にあります。MeetsMoreのVice President of Engineeringである白柳広樹氏は、共通言語を持たないメンバー間でのミスや誤解を防ぐための工夫について語ります。

MeetsMoreでは、以下のルールを基本方針としています:

  • 会議中は、疑問点や不明点を即座に書き留める
    → すぐに確認・解決できるようにするため
  • 可能な限り、動画・図・ジェスチャーなどの非言語コミュニケーションを活用する
  • Google Driveでドキュメントをしっかり管理し、プロジェクト計画や要件を共有する
  • Slack、GitHub、ドキュメントでは母語で記述し、機械翻訳を使って即時翻訳し、理解を容易にする

白柳氏は、「こうした取り組みの成果もあってか、当初は非ネイティブ言語でのコミュニケーションに抵抗を感じていたメンバーも、徐々にテキストだけでなく口頭でもスムーズにやり取りできるようになってきました」と話します。

頼れるバイリンガルの存在

DeepXには20カ国以上から集まったエンジニアが在籍しているため、エンジニア同士は英語で会話することが多いそうです。書類は英語で書き、日本語を使用する部署でも議事録を英語で作成することで、後からでも同僚が確認できるようにしています。全社会議でも同じように日本語と英語で行われています。

それでも存在してしまうコミュニケーションのギャップを解消するため、DeepXでは英語を流暢に話せる日本人のプロジェクトマネジャーを配置しています。以前は英語能力を必須にしていなかったものの、エンジニアチームでの公用語が英語になった今では、バイリンガルであることがこのポジションには必須となりました。このプロジェクトマネジャーたちは、クライアントから聞いた要望を英語しか話せないエンジニアたちに正確に伝える責任を担っています。

また、DeepXでは日本語と英語のオンライン学習を提供することで、より多くのバイリンガル社員を生み出そうとしています。こうしたオンラインレッスンは日本に移住してきたばかりの外国籍社員に特に人気があるのだそうです。

Beatrustにも似たような方針があり、日本語と英語の両方を学び話すことを社員に推奨しています。Beatrustでエンジニアリング副社長を務めるアンドレアス・ディポンさんは、バイリンガルの社員が間違いなくビジネスに必要だと感じています。

「ありがちで最大の失敗は、英語だけを話す外国籍エンジニアを採用して、チーム内のコミュニケーションはすべて英語だから問題ないだろうと考えてしまうことです。こうしたエンジニアたちとのビジネス的なコミュニケーションは想像以上に難しいということを理解しないといけません。ビジネスチームとエンジニアチームを橋渡しする立場を担える両方の言語に長けた人材が必要なのです。」

DeepXと同様、Beatrustにも言語の習得にかかる費用を会社が負担する制度があります。「最近では、ビジネスチームもエンジニアチームも大体80%ぐらいの社員が英語と日本語の両方をある程度話すことができるようになりました。どちらかの言語を話せない人が2\~3人ずつそれぞれにいるような現状です」とディポンさんは言います。「つまり、まったく日本語が話せないエンジニアが2\~3人いて、全く英語を話せないビジネスチームの人間が2\~3人いるといった感じです。」

ただ、エンジニアチームだけの場合は「100%英語です。そして、ビジネスチームはほぼ100%日本語です。」

ディポンさんは続けます。「もちろん各部署のリーダーは、そのギャップを埋めようと努力しています。私も今では日本語で実施されるビジネス会議にも参加して状況を把握するように努め、その情報をエンジニアチームに共有しています。ビジネスチームのリーダーも同じようにエンジニアの会議に参加して、エンジニアチームの中で起こっていることをビジネスチームにアップデートするように努めています。」

「ミックスランゲージ」

一方、Shippioではバイリンガルの社員に頼りすぎた結果、難しい状況に直面したことがありました。最初の頃、バイリンガルの社員に会議での同時通訳を依頼していたのですが、その方法では限られたメンバーに負担が集中しすぎてしまい、長期的に続けるのは難しいと判断されたのです。

そこで、Shippioが見つけた独自の解決策が「ミックスランゲージ」、つまり日本語の英語を組み合わせながらコミュニケーションを取るスタイルです。このミックスランゲージの目標は「お互いに理解し合うこと」とシンプル。一つの言語しか話せない社員でも、他の言語も少しぐらいは知っていることが多いものです。Shippioでは2つの言語を柔軟に使い分ける文化を形成することで、言語の壁を社員が自分たちで乗り越えられるようになっていきました。

例えば、日本人のエンジニアが英単語を忘れてしまったとします。そんな時、そのまま日本語でできる限り説明してみるのです。日本語がある程度わかる外国籍エンジニアであれば、意外と日本語で伝わることもあるのだそうです。そして、それが伝わったらまた英語に戻るといった具合です。どんなふうにミックスされるかは個別の会話ごとに異なりますが、どんな会話でも慣れない言語を話すストレスと話している相手への配慮のバランスを取ることで成り立ちます。Shippioいわく、一番重要なのはどの言語であっても伝えたいが伝わることなのです。

より多くのミーティングの機会を設ける

こうした企業が採用しているもう一つの方法は、チームをまたいだコミュニケーションを改善する目的で設けられる定期的なミーティングです。

Giveryのチームは「ウィンセッション(win sessions)」と「シンクアップミーティング(sync-up meetings)」と社内で呼ばれているミーティングを月に1回か2回設け、部署内および部署間でくまなく情報がシェアされているかどうかを確認しています。

  • 「ウィンセッション」はビジネスやプロジェクトの成功要因を分析し、今後の成功率を高める目的で実施されています
  • 「シンクアップミーティング」では、チームでプロジェクトの締切などを調整します。進捗を報告し、課題について話し合うほか、今後のタスクを明確にします。

これらのミーティングでは日本語がよく話されますが、英語にも翻訳されるほか、英語のメッセージや説明を加えることで言語の問題が起こらないように配慮されています。目的を明確にしたこうした会議を定期的に社内のスケジュールに組み込むことで、Giveryは個人個人に対するコミュニケーションを強化し、言語の課題を解消しようとしています。

Beatrustも同じく組織的かつ少しカジュアルな方法を取っています。それは、エンジニアがオフィスに来ることが多い金曜日にミーティングを設定すること。ただし、通常のミーティングに加えて、ビジネスチームも含んだ全員での「no meeting hour」も設けるというものです。

「この時間を設けるのは、ただみんなでお互いに話す機会を持つことが理由の一つです」とディポンさんは説明します。「エンジニアがビジネスチームの人に話しかけたり、お互いに話しかけるのです。それが個人的な話だろうと仕事の話だろうと構いません。こうした交流があることでお互いに喋って、チームであると感じることが重要なのです。これはかなり有益なことだと私は考えています。」

チームの絆を深める

Beatrustは、定期的に実施されるオフサイトイベントによるチームビルディングにも積極的です。
「前回は高尾山の山間部に行きました」とディポンさんは話します。「うどんを作ったりして、とてもよかったです。QRのためのワークショップだったのですが、日本人でもうどんは作ったことがない人がほとんどですから本当に楽しかった。その後はチームや会社の文化、次なる自分たちのゴールなどに関するワークショップをして半日過ごしました。」

ディポンさんは特に同僚について知ることができる機会を楽しんでいるようです。

例えば「どうして母国を出たのかとか、なぜ日本に来たのか。母国にはどんな問題があって、どんないいところがあるかなど、人それぞれまったく違うストーリーを聞けますから。」

DeepXもまた、家族連れのパーティーやバーベキュー、その他の楽しいイベントを通じて異なる文化やバックグラウンドを持つ社員同士の絆を深めています。日本が封鎖され、外国人エンジニアが入国できなくなってしまったコロナ禍以降に、この方針をさらに強化。国境が開放され、足止めされていたエンジニアたちがようやく日本に入国できるようになった時、DeepXでは新入社員と他のメンバーの関係構築のために、2週間ごとに社内で懇親会を開いたのだそうです。

就労ビザのサポート

外国籍エンジニアを雇用するすべての会社が海外在住者を採用し、日本に呼び寄せているわけではありません。多くの会社がすでに日本に住んでいる外国籍の人材の採用を好むからです。しかし、海外在住者を採用して就労ビザをサポートしている会社においては、どうするのがベストかという点で全社が同じ意見でした。それは「プロフェッショナルを採用する」ということ。

Cybozuはそうしたプロフェッショナルたちをどんどん自社に呼び寄せています。とはいえ、最初に採用した外国籍メンバーはアメリカに住むエンジニアでした。本人には日本で働きたいという希望があったものの、当時のCybozuには就労ビザの取得や社員の移住手続きに関する経験がなかったため、アメリカの子会社で働いてもらうことになりました。

しかし、グローバルの採用を続けていくうちに、相当数のエンジニアが日本への移住に興味があることに気づいていきます。それに対応すべく、Cybozuは自社の多国籍チームをサポートするプロジェクトを創設。就労ビザを提供できるようにして今に至っています。

ビザの手続きを外部に委託する会社もあります。例えば、DeepXは認定行政書士法人にビザ申請手続きの代行を依頼しています。Autifyもまた、入国管理手続きを「専属の専門」弁護士にお願いしています。

AutifyでVPoEを務めるトーマス・サントンジャさんはビザ取得にかかる支援は必要経費で、外国人エンジニアを採用するメリットはコストを上回ると感じています。

「以前は日本国外で長期でフルリモート勤務をする社員がいましたが、物理的に会うことができるという価値が大きいことに気づいてからは止めました。直接会えるほうが、個人的に知らない人に対しては努力をしにくいと感じる日本語を話す社員がよりよく一緒に働けるからです。 少なくとも物理的に日本にいることができるという条件がこの2年間で必須のようになりました」とサントンジャさんは話しています。

またAutifyでは、実際にビザの手続きを始める前に1ヶ月間のトライアル期間を設け、新しく採用した人には母国からリモートで働いてもらうことで、不要な出費を抑えています。これまでに唯一直面した困難な問題は、エジプト在住の人材を採用した時。ビザの手続きが非常に複雑で、結果的に諦めることになってしまいました。ですが、Autifyにはフランスやフィリピン、カナダなど様々な国出身のエンジニアが在籍しており、これまでに繰り返し新規採用者の日本への移住を実現しています。

日本になじむためのサポート

新規採用者が日本に移住するにあたって、ビザの支援はその始まりにすぎません。会社によって方法は様々ですが、ビザ支援の次は外国籍社員のための特別なサポートを提供することになります。

DeepXでは、単に新しい会社で働き始めるだけでも十分に難しいことだと指摘します。その上、新しい国で新生活を始め、しかもその国言葉も話せないとなると想像を絶するほどのチャレンジです。そうした考えのもと、DeepXでは来日に際する飛行機代はもちろんのこと、その他のサポート制度も用意しています。

日本での新生活をサポートすべく、空港から移動する際の車や1ヶ月間滞在できる家具付きのマンスリーマンションも手配しています。そして、生活に必要な手続きをするために4日間の特別有給休暇も付与します。銀行口座の開設や携帯電話の契約、住居を探すなどをその休暇を使ってできるというわけです。また、手続きそのものが難しくなりがちな家探しにおいては、外国籍の人の住居探しを専門にしている不動産会社の紹介もしています。

Beatrustのディポンさんは、外国籍の社員には入社時だけでなく継続的なサポートが必要で、社内に少なくとも1人は彼らを手助けできる人がいるのが理想だと考えています。

「日本の法律や税制などについてすべて知っていて、周りもみんなそれで育ってきているし慣れているという状況に多くの企業がはまる落とし穴があると思います。そうした制度について何も知らない外国人が突然やってくるのです。彼らの母国の制度とはまったく違うわけですから、当然手厚いサポートが必要です。」

一方、Autifyのサントンジャさんは社員が新生活を始めるサポートについて異なる見解を持っていました。「特に困難なことはないと心の底から言いたいです。離れて見ていると難しそうに思ったことでも、いくらかの準備やちょっとした手間や考えることが必要なぐらいだということをどうか知ってほしいです」と言ってこう話します。

「ほとんどの社員はうちの会社を探してきているのです。つまり、彼らは日本に移住する機会を探していて、ビザの支援をしてほしいと考えているわけです。ビザを支援してくれる会社と出会うチャンスは、彼らに頻繁に訪れるものではありません。そのため、日本に住んで生活していきたいというモチベーションが非常に高いことが多いので、日本になじむことがそれほど難しいことだとは私は思わないのです。」

まとめ

この記事で紹介したような手続きに慣れていない会社の場合、海外から人材を採用することは非常に難しく感じるかもしれません。しかし、海外からエンジニアを採用する際によく直面する課題は大きくは二つだけ。一つは言語の壁ですが、これには実務面や文化面で取り組める様々な解決策がありました。二つ目は就労ビザの取得。こちらも外部か社内の専門家に依頼すれば適切に対応してくれます。

特に専門家のサポートなどがあれば、どちらも乗り越えられない壁ではありません。また、とりわけGiveryからは採用する前からすべての詳細を把握しておく必要はないというアドバイスもありました。社内の制度が整いすぎてしまう前に、早期に外国籍の社員が入社することで得られるメリットがあるからです。

外国籍エンジニアの雇用がこうした企業にもたらしたメリットについて、詳しく知りたい場合はこの記事の前編もぜひお読みください。

著者について

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木本恵子

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‌TokyoDevでは総務などをサポートしました。現在、食品やライフスタイル業界での経験を活かした企画やコンサルティングを提供する株式会社MALOUの代表を務めています。

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Rebecca Callahan

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Rebecca Callahan is a narrative designer and editor living in Japan. In 2015 she founded Callahan Creatives, a writing agency specializing in storytelling for brands and IPs. She enjoys making cool things with cool people, and drinking way too much coffee.

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